緑 1
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翌週、卒業式間近の中学校の校門の外で待っていると、
数人の友人と共に夜神が出て来た。

私に気づくと、一瞬眉を顰めて無視するかどうか迷っていたようだったが
結局友人に何かを告げてこちらに来てくれる。


「……あなたが彼女のお兄さんだって、みんな知ってるから」


目を見ないまま挨拶もせずに、無視しなかった理由を説明する。
それは同時に、Lと夜神月としての会話は拒否する、という表明でもあった。


「はい。ありがとうございます。
 今日だけ一緒に帰りましょう」


そう言うと、また少し眉を寄せて早足で先に歩き始める。


「今朝妹が帰国しました」

「ああ、そう」

「あなたに言うように言ったのですが、忙しいだろうからと。
 それで私が代わりに伝えに来ました」

「……」

「付き合ってるんですよね?妹と」

「ああ」

「私を振って、好きになった女の子って妹の事だったんですか?」

「……ああ」


夜神なのに。
嘘を吐くのが少し、下手になっている。

だがさすがにあまりにも大人げない態度だと反省したのか、
取って付けたように妹の様子を尋ねて来た。


「その。試験はどうだったって?」

「我ながら良く出来たと言っていたので、恐らく合格するでしょう」

「そうか……だろうね。でも、良かった」


今度は心底ホッとしたように呟く。


「そうですか?妹が渡英したら、超遠距離になりますよね?」

「でも、好きな人の夢は叶って欲しいと思うよ」

「妹のどこを好きになりました?」

「……え?」

「正直に言うと、私、まだあなたに未練があるんです」

「……」


おまえが「夜神月」である事を否定するのなら。
私も、「L」を忘れた振りをしてやろう。


「あの子は、可愛い妹でもありますが、恋敵でもあるんですね。
 複雑です」

「……」


夜神はまた、眉を顰める。
その顔はベッドの上で極まった時の表情にも似ていて
不覚にも、少し欲情した。


「……天才肌に見えて、実は凄く努力家な所」

「はい?」

「妹さんの好きな所だろ?あと、気が強い所。意外と甘い物が好きな所」

「甘い物。私も好きですよ」

「ああ、気持ち悪いくらいにな」

「……」


現在、彼の前では殆ど甘い物を食べていない。
食べている姿を見せないよう心掛けてきた。
それはこんな時の為にだったが、面白い程簡単に引っかかったようだ。

夜神もすぐに、前世の記憶を元に発言してしまった事に気づいたのだろう。
息を吸った後、少し足を早める。


「どうしました?私がそんなに甘い物が好きだと知っていたんですか?」

「お……お兄さんの誕生日にケーキを持って行った時、
 美味しそうに食べてたから」

「気持ち悪いくらいに?」

「……ごめん」

「怒っていません。ただ、不思議に思っただけです」


その顔を覗き込むと。
逃げるかと思ったが、彼は立ち止まって真正面から見返してきた。
さすが夜神、と言ってやって良いだろう。


「……何が言いたい?」

「別に」


私は、ある程度手の内を曝した。
おまえを「ライト」と呼び、元捜査本部ビルを見せ、
「デスノート」さえ与えた。

よもや私が「Lの記憶」を持っていないとは思うまい。

ならば次は、おまえの手番だ。


言え。

記憶が蘇ったと。

自分は夜神月だと。

キラだと。



「お兄さん」

「何でしょう?」

「今日、家に寄って行く?……勿論、『彼女のお兄さん』として」






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