青 5
青 5








少年はそのまま朝まで目覚めず、私が起きた時は
発熱していた。

仕方が無いので宿泊を延長し、解熱剤を飲ませてがたがた震える身体を
抱きしめて寝る。

少年は聞き取れない譫言を言いながら、時に私を突き放し、
時にしがみつきながら数時間眠っていたが、
昼過ぎには熱が下がって意識が戻った。


「熱は下がったようですね。どうですか?気分は」

「……」


どこかまだ潤んだ目で、ぼんやりと窓の方を眺める。
視線の先にある青いビルは、相変わらず静かだった。


「一体どうしたんでしょうね?
 すみません、私、昨夜何か無茶をしましたか?」

「……いや。そんな事、ない」


数時間ぶりに聞く声は、擦れて抑揚がなく、別人のようだ。


「そうですね。確かに縛ったり独りよがりではありましたが、
 あなたも、いつもより感じてくれているように思いました」

「……」


少年は、視線を動かさない。
絶対に私の顔を見ない。
だが。


「知恵熱……ですかね?」


言った瞬間、じり、と眼球が動き始めて、じわじわと
私の方に顔を向けた。


……夜神。


……これほどはっきりと分かるとは、予想外だった。

顔つきが。
記憶がない時も夜神だとすぐに分かったが。

目つきが。
どうしようもなく……キラだった。


「……」

「……」


夜神にも、私がLだと分かっただろう。

記憶を取り戻した暁には。
もしこの顔を見ただけでは分からなくとも、絶対に分かるように
周到に用意をして来た。
この、元捜査本部ビルが見えるホテルもその一環だ。

だが、そんな事がなくとも。
何のヒントもなくても。

夜神には分かった筈だ。


……こんな時。

前世の宿敵で、殺した相手に抱かれていた時。
知らずにその相手に甘え、愛を告げていたと知った時。
それを相手が知っていたと、知った時。

自分がそれに気づいた事を、知られた時。

夜神なら、どうするだろう?

正面切って思い出した事を確認するだろうか?
それともいっそ、何もなかった事に?


「……どうしました?」

「いや……」


少年は……いや夜神は、言葉少なにごまかし、
前世の記憶が蘇った事も表さず、蘇っていない振りもせず
心ここに在らずと言った様子でその日を過ごして別れた。

ただ、別れ際に私が渡した誕生日プレゼントに、複雑な顔をしていた。

それは、某ハイブランドの革のノートカバーだったが
中身に黒いノートを選び、表紙に「DEATH NOTE」と書き加えておいたのは
巫山戯すぎだっただろうか。




それから三日と経たずに私は振られた。





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