青 2 「肉を食べる時くらいは如何ですか?」 「だから未成年だから。何かあったらお店に迷惑も掛かる」 「お店は、未成年と分かっていて酒を供さなければ良いので、 あなたがこっそり飲む分には気づいても見ない振りをしてくれますよ」 「でも」 この機に少年に酒を飲ませてみようと思ったが、さすがに日本一の優等生を 自認するだけの事はある。 何度もさらりと躱されていた。 だが。 「それに、私だって未成年ですよ?」 そう言ってグラス半分をごくごくと飲んで見せると、対抗意識丸出しで 私を睨み、グラスを指差した。 注げという事らしい。 ボトルを傾けて減った分を満たし、押しやると、気取ってグラスの足を摘む。 そして一瞬だけ躊躇った後、一気に呷った。 ワイングラスなので大した量ではないが、酒に慣れていない者が 一飲みにする量ではないだろう。 いや、慣れていてもワインでこんな飲み方をするとは。 「意外とそんなに美味しい物でもないね」 「グレープジュース頼みましょうか?」 「いらない」 平然として食事を続けたが、デザートが出る頃にはその顔は 桃色に染まっていた。 「顔、赤くなってますよ?」 軽くからかうと、耳が更に真っ赤に染まる。 「……自分が酒に弱いとは思わなかった」 「話し方は普通ですけどね」 「うん……精神的には変わっていないつもりだけど、やっぱりいつもより 少しだけ頭の回転が鈍い」 「そうですか」 そう言うと、糸が切れたかのように珍しく行儀悪く机に肘を突き、 「恥ずかしい」と呟いて掌に頬を埋める。 同級生の女の子が見たら「かわいい」と騒ぎそうだが、私は これが夜神だと思うと、非常に面白かった。 食事を終えて、明らかに酩酊している少年を人目から庇うようにして 部屋に到着する。 ドアを入るとまっしぐらにベッドに向かってダイブし、靴を脱ぎ散らかした。 「優等生が聞いて呆れますね」 「その優等生に酒を飲ませておいて呆れますね」 減らず口を叩いてクスクスと笑う。 「すみません。五年早かったです」 「いや、冗談だよ……飲んだのは僕だし」 そう言って気怠げに寝返りを打つ。 横向きになった細い腰と、こちらに向けられた尻のラインには さすがに性欲を刺激された。 「服、脱がないと皺になりますよ」 「ははっ。いやらしいな」 「いやマジで」 「う〜ん、だるい……」 どうやら少年は本当に半分寝かけているようだ。 私は仕方なく、スラックスとシャツを脱がせた。 「椅子に掛けておきますよ」 「……ありがと……」 ボクサーブリーフと靴下だけになった少年は、楽しそうに手足を伸ばした。 私もスーツを脱いでハンガーに掛け、下着姿でその隣に横たわる。 少しうつらうつらした後、冷蔵庫を開ける音で目が覚めた。 「あ……、ごめん。起こした?」 「いえ。寝るつもりはなかったので」 「何だか喉が渇いて」 少年も一眠りして酔いが醒めたらしい。 冷蔵庫の中の光に照らされ、いつも通りの白い顔で肩を竦めた。 とは言え、その姿は着衣は下着と靴下だけどいう滑稽なものだが。 「ああ……おめでとうございます」 時計を見ると、零時を三十分程回っていた。 「ん?あ、誕生日?ありがとう」 「日付が変わった瞬間に言いたかったです……」 「お兄さんって意外とロマンチストなんだ?」 本当は、誕生日になった時から観察をしたかったのだが まだ記憶を取り戻していないようで胸を撫で下ろす。 この変わらなさで記憶が戻っているとしたら、驚嘆すべき演技力だ。 ……いや。夜神なら、あり得るか……。 暗い目で見つめる私を他所に、ミネラルウォーターをごくごくと飲んだ後 少年はベッドに戻って来て私の隣に腰掛けた。 「酔いが醒めた。軽く運動しようか?」
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