ヴァレンタインズ・デイ 5 「月くん……気のせいかも知れないんですが」 「何」 僕が諦めきれずにぽつりぽつりとネット検索していると、竜崎が 向かいから声を掛けてきた。 長丁場になって来たので、頭の下にたくさん枕を入れて 竜崎も上半身を少し起こす形になっている。 「中なんですけどね」 「何の?」 「私の、中。に入っているあなたの一部、なんですけどね、 何だか冷えてきている気がします」 「え」 「最初は痛みもあって熱いな、と思ったんですが、今は私の体温より 少し低い気がするんですよ」 そう言えば、痛みが……というか感覚が、なくなってきている。 竜崎の体温を感じることも、出来ない。 恐らく、もう猶予はない。 ワタリさんを呼ぶか、壊死を待つか。 いや、まだ何か手はある筈だ! 僕は、ノートPCを静かに閉じ、サイドテーブルに置いた。 そのまま竜崎に覆い被さって、唇を合わせる。 掌で脇腹から尖った肋、乳首を撫でるように優しく愛撫しながら 舌を入れた。 歯並びの良くない、しかし真っ白な歯を思い出しながら 目を開けると、竜崎も戸惑ったような目をしながらも 僕の舌を受け入れていた。 そのまま、下に手を伸ばして腹、性器、と愛撫して行くと 竜崎の上半身が枕の山から崩れ落ちる。 僕も引っ張られている筈だが、もう感覚もないので痛みも感じない。 そのまま押し倒して後ろに手を這わせ、接合部分を…… 肛門の回りを丹念に撫で解した。 どれほど経っただろうか。 竜崎が時折耐え切れないように甘い息を漏らすようになり、 根元がぎゅっと絞められた。 まだこの上か……!この作戦は裏目に出たか! と思ったが、次の瞬間。 ふわりと、緩められた。 あまりにも唐突すぎて一瞬何かの錯覚かと思ったが、 一気に血が流れて顔までカッと熱くなる。 助かった、と思ったらまた絞められたが、すぐに緩んだ。 血が巡り、情けない声が出そうになる程の痛みが走る。 しばらくは、どくん、どくん、と脈打つ度に血の気が引いたり熱くなったりしたが やがてそれも、治まってきた。 「竜崎……」 「なんか……、治りましたね」 しかし油断して急に引き抜いたらまた元の黙阿弥かも知れない。 ローションを足しながらゆっくり抜いて、少し戻して、を繰り返してみたら 軽く収縮はするものの、先程のような機械に締め上げられているような 怖い感じはなかった。 血も流れ、普通の勃起状態が復活した。 壊死しかけたせいか、普段よりも格段に敏感になっていて、 そして……長らく溜めこんでいたものを、発散したがっている。 「竜崎、まだ痛い?」 「いいえ……」 死に物狂いで丹念に愛撫したのが効いたのか、竜崎もいつの間にか そそり立って、その肌は湿っている。 これは、満更でもない。 僕は竜崎の腰を抱えなおして、フルスロットルで動き始めた。 「あ、ちょっと、月くん!」 おまえの心の準備なんか知るか! 「月くん、いや、まだ、イかないで下さい!私も、もう少し、」 ってさっきの今で、楽しむのか……いや人のこと全然言えないけど。 僕の下で身悶えし始めた竜崎に、それでも少しなら付き合っても良いかと 軽くブレーキを掛ける。 前立腺がどこか知らないが、とにかく前を刺激するように突き、 竜崎の物を目暗滅法に扱いた。 それでも、入れているという事は自分もどうしても刺激を受けるわけで 今度は射精感に耐えるのに脂汗が出始めた頃、 竜崎の中がぐぐっと動いて。 「あ、ああ、月、く……C'mon...! C'mon! Light! Are you alright? 」 「え……?ああ、うん、イクよ?」 「...Coming! ......I...I'm coooomin!!!」 さっきと違って、中でうねるような締め付け、 髪を振り乱して快感を訴える竜崎、 背中に食い込む指、 男に全力でしがみつかれるとさすがに辛いな、と思いながらも 僕も気を失いそうな程の快楽に身を任せ 竜崎の中に、全てを注ぎ込んだ。 「凄かったです。凄く気持ちよかったです月くん」 「ああ……そう」 「元気がないですね?」 「いや……ちょっと、体力を使い果たしてしまって」 「ああ。抜けない間私は体力を温存していましたからね。 どうやって抜いたんですか?」 苦し紛れに調べていた膣痙攣の対処法を、試してみる事にしただけだ。 結局は緊張とストレスが原因なので、緊張を解しながら 括約筋の回りをゆっくりとマッサージすれば治ると書いてあるサイトがあった。 しかし勿論、竜崎のそこは膣ではないし、緊張だのストレスだのが 体に出るようなタマでもないと思うので、単なる偶然だとは思うが。 「やはり、自白が効いたのか……」 「分かっていると思うけど一応言っておくけど嘘だから。 100パーセント嘘だけど謝らないぞ」 「では、何故治ったのです?」 「愛の力」 「なるほど」 「納得する所じゃないだろうそこは」 体力の消耗以外にも、カメレオンの中に射精してしまったという 自己嫌悪もある。 ……しかも良かった……とても……。 当分立ち直れないかも知れない。 相変わらず快感に素直だな、とか。 乱れた時の様子からして英語圏の人間らしい、とか。 というかやっぱりガイジンさんなんだな、とか。 そのガイジンさんとヤッてしまったな、とか。 どう考えても竜崎は、僕のセックスの相手としては非日常過ぎる。 まあ一度すれば興味が失せると言っていたし 今回で竜崎も懲りただろう。 「疲労回復には、やはりこれです」 竜崎が、僕が突き返したままベッドヘッドに置いてあった箱を手に取り バリバリときれいな包装を破った。 蓋は何故か丁寧に取り、中から一口大の茶色の菓子をつまみ出す。 そのまま仰向いて、待ち切れないように迎えに行った舌に乗せ…… る直前、ふっとこちらに視線を向け、そのままクレーンゲームのクレーンのように 滑らかに僕の顔の前までチョコを運んだ。 「どうぞ」 おまえが食うのかよ!という僕の心のツッコミが聞こえたらしいが そんな、殆ど食べかけてたようなチョコ寄越すなよ……。 「……美味しい」 しかし、仕方なく口に入れたチョコは上品な甘みが口の中でゆっくり溶けるようで 今まで食べたチョコレートの中で一番美味く感じた。 同じメーカーのチョコは何度か食べたことがある筈だが、どうしてだろう。 「ですよね」 「本当に、疲れが取れる気がする」 「もう一戦行きますか?」 「ばっ……二度とごめんだ!おまえだってあんな事、もう嫌だろ? 本当におまえの体、一体どうなってるんだよ」 「そうですね。健康診断を受けた方が良いのかも知れません。 取り敢えずワタリに原因を調べさせます」 「ちょっと待て!」 その時、ぎょろりと僕を見た竜崎の、笑い混じりの視線は 明らかに僕をからかっていて 恐らく本気で他言する気はないのだろうと思われたが 僕を落ち込ませるのには充分だった。 ※この月が黒月に戻ったら、「ぐわあああああ……あ、てゆうかぎゃああああ!」ってなりそうですね。
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