シュガー・ボーイ 1
シュガー・ボーイ 1








「月くん……どうしてパジャマを着てるんですか?」


寝る時にパジャマを着て何が悪い!
その質問の不自然さに気づけ!
というかおまえもいい加減何か着ろ!

と言いたいのを我慢して、僕はベッドの上に座り直した。
そして鎖の先で真っ裸で指をくわえている竜崎に向かって
夜神月らしいソツのない笑顔を浮かべる。


「寝るからだよ」


過去の経験からして、コイツ相手に頭に血を上らせたら終わりだ。
あくまでも冷静に冷静に、注意深く対応しないといつの間にか……

セックスする羽目になっていたりする。





「水くさいですね。あなたと私の仲で」

「どんな仲だって言うんだ」

「探偵と容疑者です」

「だよな!ならパジャマくらい着させろよ!」


いやダメだ。いちいちつっこんでいる場合じゃない。


「でも恋人でもありますよね?」

「……ないだろ」

「冷たいですね。愛していますのに」

「嘘吐け。ヤリたいだけだろ?」

「まあ有り体に言えばそうですが、それだけでもないです」


言いながら竜崎は、すうっと僕の喉元に片手を伸ばしてきた。
一応睨んで抗議の意思を表明したが、逃げるのは業腹だ。

案の定、人に断りもなく、パジャマの一番上のボタンを器用に外す。


「やめろよ。一度したら興味がなくなるって言っただろ」


数日前……色々と流されて、竜崎としてしまった。
そして酷い目に合った。
「二度とゴメンだ」以外何も言いようがないし、竜崎も当然そうだと思っていたのだが。


「まあそうですが、先日のはイレギュラー過ぎます。
 ハプニングのないノーマルな行為というのはどういった感じか興味があります」

「充分アブノーマルだから!」

「おや。同性愛差別ですか?」

「そういう事じゃない」

「私は凄く良かったですけど。月くんも相当感じてましたよね?」


感じてたとか言うな!そうだけど!
いくら気持ちよくても、あの恐怖や苦痛と天秤に掛ければおつりが出る。
喉元過ぎればとは言うけれど、たった数日だぞ?


「でももう無理」

「どうしてですか?」


あの時の事を思い出したら、勃起出来ない。
また同じ事が起こったら……と考えるだけで恐ろしい。

だが、それを言ったら竜崎はきっとやっきになって勃たせようとする。
もし万が一、まかり間違って、勃ってしまったら。
もう逃げられない。

僕も、これ程長期間プライバシーのない禁欲生活をした事がないから
自分の生理に自信が持てなくなっているし。


「……もう一度しても、性欲も探求心も満たせないよ」

「どういう事でしょうか」

「この間良かった理由だけど。
 僕は長いこと鬱血させられて、感覚が鋭敏になっていた。
 おまえは、長いこと締め付けた反動で必要以上に弛緩して、
 本来感じる筈の僅かな痛みも免除され、性的快感に集中出来た」

「はあ」

「だ、か、ら。おまえの言う『ノーマルな行為』をしてもあの時以上の感覚は得られない。
 そうと分かればする必要ないだろ?Quod Erat Demonstrandum」

「デモンストランダムではなく、デーモンストランドゥムです」


竜崎なら当然、証明でも何でもないと噛み付いて来ると思ったが、
意外にも一言つっこんだ後黙り込んだ。
指をくわえて、自らの丸出しの股間を見つめながら何かを考えているのを見ると
急に不安が募る。

こういう場合、絶対変な方向から攻撃してくる。
争うにしても、がっぷり四つに組んでいる方がまだ安心出来る相手だ。

不真面目な態度に苛立ってつい殴ってしまった時も、
座った姿勢からいきなり蹴ってきた。
全く反撃がないとも思わなかったが、あの場合普通
殴り返して来ると思うじゃないか。


「なるほど。月くんの言う事にも一理ありますね」

「じゃあ、おやすみ」

「なら新しい事を試してみましょう」


ほら来た。
だがもう絶対変態行為なんかしない。
一度だけだと思ったから付き合ったんだ。

外されたボタンを手早く留め、竜崎に背を向けて横たわる。


「眠いから。勃たないから。おやすみ」

「私勃ちます」

「そう。おやすみ」

「寝てもいいですが、お尻だけ貸して下さい」

「ばっ……バカかおまえは!」

「そういう質問が出るという事は、私の尻を借りたあなたは
 バカ確定ですか?」


駄目だ……!冷静さを失ってはいけない!
ペースを乱されてはいけない。
うっかり乗ってしまったら、「バカじゃないならさせろ」とか
訳の分からない理屈に踊らされてしまうに違いない。


「……入れたいなら、それこそ普通に女性に頼め」

「う〜〜〜ん。分かりました。月くんから頼んで下さい」

「誰に。何を」

「弥に。私としてくれるように」


死ね!と言いたいのを我慢して起きあがり、拳を竜崎の頭に振り下ろす。


「……痛いです。覚悟出来てるんでしょうね?」

「何考えてるんだ!ミサを何だと思ってるんだ!」


ない眉を寄せてこちらを見ていた竜崎の顔が、かくんと横に倒れた。
と思ったら、頭の横に衝撃が来た。
器用な事に、座った状態のまま僕を蹴ったらしい。


「この状態で、」


右手を持ち上げて、鎖をじゃらりと鳴らして見せる。


「私が女性とするとなると必然的に3P的な事になるかと思いまして。
 弥が適任者かと思ったのですが」

「僕は関係ないだろ!女性をそんな事に使うな!」

「女性に頼めと言ったのは月くんですよ?」


起きあがり、今度は頬を殴るとすかさず足を払われる。
そのままベッドの上で転がりながら、お互い相手の関節を取ろうと
揉み合っていたが……。

ここでもし腕でも捻られたら、それでおしまいだと気が付いた。


「竜、崎、」

「その気に、なって、いただけましたか」

「……今日は、僕の言うことを聞いてくれ」

「『今日は』ですか?今日と言う日は特別な日なのですか?」

「今日は……今日は、僕の誕生日なんだ、だから、」


口から出任せを、言ってしまってからすぐに後悔する。
この僕が、嘘を吐くなんて。
それも、世界一の名探偵に向かって。


「それは……おめでとうございます」

「ああ、ありがとう」

「今日と言っても、あと30分しかないですね」


後ろめたい事にまんまと引っかかってくれてしまったようだが、
どうせなら明日と言っておけばよかったか。
いやそうしたら、30分の間に終わらせますとか言い出すよな。


「少し待って下さいね」


だが竜崎は、変な理屈も捏ねずにいきなりベッドを降り、
PCに向かった。






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