ヴァレンタインズ・デイ4 入れた時、思ったよりあっさりと奥まで入ってしまったのだ。 これは意外と行ける、もしかしてああは言っていたが 竜崎は経験者なのだろうかと思ったのを覚えている。 しかしその次の瞬間、根元に強烈な締め付けが来た。 確実にゴム状の物ではなく「紐」か「ワイヤー」で縛られたような伸縮性のなさ。 千切れるかと思った。 当然感じるどころではない。 自分が堅いから余計にキツいので、何とか萎えたいが 血も通えない程絞められてそれも無理だった。 膣痙攣……? 嫌な言葉が脳裏に浮かぶ。 いや違う、コイツに膣なんかない。 そこでやっと竜崎の様子に気が回った。 目を開いて前にある顔を見ると、 喉を逸らせて、目を限界まで見開いてひくひくと震えていた。 イッてる?入れただけで? てことはもうすぐこの締め付けも緩む? などと楽観的バカな事を考えたのは一瞬だけで、すぐにこれは ただ事でないと気付く。 「りゅう…っ…」 声を掛けようとすると、僅かだが接合部が動いて、目の前が真っ赤になる程の 痛みが訪れた。 竜崎は漸く僕の顔に目を向けて、顔を歪めながらも 分かった分かったと言うように、微かに頷いた。 で、何度も深呼吸をしてやっと落ち着いた竜崎が最初に発したのが、 先の救急車発言だった訳だ。 冗談じゃない。そんな事受け入れられる筈がない。 この姿を父や他人に晒すくらいなら、今この場で舌を噛みきって死ぬ。 「竜崎は、もう、痛くないの?」 「滅茶苦茶痛いですよ。でも申し訳ありませんが自分では何とも」 落ち着いてきたのなら緩めろと言いたかったのを先回りされた。 「救急車は、絶対にダメだ。色んな意味で」 「はい。私も不特定多数に自分の顔を晒したくないですしね。 医師や看護士にキラかその仲間がいないとは限りません」 そこかー!命以外に守る物はないのかおまえには! 「という事で取り敢えずワタリを呼びましょうか」 「それもダメだ!……まず、状況を分析しよう」 「主に私の体内で起こっている事ですが、多分肛門括約筋が痙攣しています」 「何が原因だ?どうすれば治る?」 「原因は分かりません。しかし痙攣は大概ストレスがその要因です。 今の私の最大のストレスはキラですから、ひいてはあなたと言う事に」 「ふざけっ……っっつぁ!!」 「大きな声を出すと痛いですよ。私も痛みますし」 だめだ……頭がまともに働かない。 痛みには少し慣れて来たんだ……落ち着け。落ち着け。 大丈夫、きっと切り抜けられる。 「……まあ、朝まで何時間もあるんだし。 最悪このままでもいつかは抜けるだろう」 「私はそれでも構いませんが……」 「何」 「ペニスって、強制勃起状態で何時間も放置すると、壊死するそうですよ」 「壊死」 「はい。凍傷と同じで血が通わなくなってそこから先が死にます。もげます」 「……」 痛みに耐え続けた挙げ句、何も感じなくなって、 やがて黒紫になった陽物がぽろりと落ちる……。 いや、それは嫌だ! 救急車を呼ばれるよりはマシだが、いやマシか? 後処置はしなければならないし、結局家族にバレる羽目になるよな? 「竜崎……」 「仕方ないですね」 「いいのか?」 「まあ、それは検索用で大した情報も入ってませんから」 枕元のノートPCに目をやっただけで、言いたいことが伝わる。 他人に個人用PCを使われるなんていい気はしないだろうし よりによって僕はキラ容疑者なのだから、絶対に拒否されると思ったが 案外あっさりと許してくれた。 まあ、竜崎が嫌がったとしても無理矢理にでも使ったが。 「おまえが使ってもいいんだよ」 「私はアマデウスではないのでそんな器用な事出来ません」 映画で、調子に乗ったモーツァルトが曲芸のように逆さま状態で ピアノを弾くシーンがあったような気がする。 竜崎ならその位しそうだが、実際は、仰向けに寝ている竜崎と 一応座位というか上半身を持ち上げられる僕となら、 僕の方がPCをいじるのに相応しいだろう。 枕元からPCを取り、ちょっと持ってて、と竜崎の胸の上に置くと ディスプレイ画面の向こうから 「屈辱です」 と呟くのが聞こえた。 「どうですか?」 「う〜ん……」 検索窓に出てくる予測単語にいちいち脱力しながら、 肛門痙攣とその応急処置について、日本だけでなく海外サイトも探した。 確かに物を入れて抜けなくなって困った人はたくさんいる。 ただ、そのどれもが、困った挙げ句最終的に病院に行っているのだ。 「その返事だと芳しくないようですね。 ワタリならきっと何とかしてくれると思いますが」 「待てって……そろそろ落ち着いて来ただろ。 おまえ自身で何とかならないのか?」 「なるものならしたいですけどね」 「ストレスを取り除いたら治る?」 「キラだと白状してくれますか?緩めると言ったら」 「する。僕がキラだ。キラなんだ。今まで騙していてすまなかった」 「こちらこそすみません。せっかく自白していただいたのに、無理です」 もう、どうでも良い気がしてきた。 僕がキラであろうがなかろうが、そんな事はどうでもいい。 全く記憶にはないが、キラの全ての罪を引き受ける。 今すぐ、これを抜かせてくれるのならば。
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