ヴァレンタインズ・デイ 2 数日前、成り行きで竜崎と……セックスまがいの事をしてしまった。 自分でもどうかしていたと思う。 それをまた竜崎が存外気に入ってしまった様子だったので 僕は過ちを繰り返さないよう、出来るだけプライベートルームで 二人きりにならないよう、ベッドに入ったらすぐに背を向けて寝るように 心がけているのだ。 しかしそうして避けながらも、竜崎が父に向かって話しかける度に あの事を言われないかといちいち緊張していた。 また、そんな僕の様子を竜崎が楽しんでいる節も見られて 腹立たしい事この上ない。 だから、いつか何らかの形で決着を付けるというか、話をしなければならないと 思っていたが、今こんな形で持ち出されるとは。 「竜崎……その事なんだけど」 「月くんは、入れるのと入れられるのとどちらが好きですか?」 「そりゃ男だから入れる方が、って話聞け!」 「断るんですか?」 「ああ。悪いけど、僕は本当にそういう趣味ないから」 「では何故私の体を弄んだんですか?」 「弄んでない!いちいち人聞きの悪い言い方するな!」 「私はただ自慰の仕方を聞いただけですよ。押し倒して来たのは月くんです」 「あの時は……別に無理矢理した訳じゃないだろ」 「酷い男ですね。では私もはっきりと脅迫します。 夜神さんに月くんが私にした事を事細かに伝えます」 「わあああああ!」 せっかく、あんな大芝居を打って息子のキラ容疑を晴らしたばかりなのに その僕が今度は変態となったら、あの父の事だ、また銃を取り出して 僕を殺して自分も死ぬとか言い出しかねない。 「竜崎、落ち着け!」 「それはこちらのセリフですが」 父や捜査員達に軽度の……いや中度の変態と思われた方がいいか、 それとも誰にも知られずに本物の変態になった方がいいか……。 竜崎、おまえがせめてジャニーな人達みたいな容姿だったら。 僕は自分で自分を許せるし父も許してくれると思う。 だが。 「月くん。何気に失礼ですね」 「何が」 「視線があなたの思考を全て物語っていますよ」 「ああごめん。わざとだ」 「確かに私は美男ではありませんが、男の価値は顔ではありません」 ぎょろりとした目で、僕を横目に見る。 爬虫類……の中でもカメレオンに似てるな。 顔も。中身も。 何を考えているか分からなくて、言っている事がころころ変わって。 このサイズのカメレオンと性行為……変態だ……。 いや、普通のサイズでも充分変態だけど。 そのカメレオンが、不意にその骨張った前足……じゃなかった 手を伸ばしてきた。 早くはない、しかし一定のスピードで確実に獲物を掴む。 そんな所も爬虫類っぽい。 「というか何するんだ」 「月くんは、こうするのが好きなんですよね?」 竜崎の言うがままに、何も身に付けずにベッドに入った事を後悔する。 ひんやりとした手は僕の急所を無遠慮に掴み、以前自慰をして見せた時のままに ゆっくりと茎を辿った。 「……勃ちませんね」 「悪い。無理だから」 「まあいいです。そういう場合は攻守交代という事で」 「ちょっと待て」 いつの間にそういう話になっているんだ! 覆い被さって来るな! 「竜崎!頼むからちょっと!」 「私、勃起出来ます。あなたに入れられます」 「待て、待て待て!分かった!この間みたいにするから!な? お互い気持ちよかっただろ?」 「そうですね。ただ私としては、出来れば性欲と探求心と 両方満たしたいんですよね」 「え?」 「未知の領域を楽しみたいんです。 この間と同じではこの間以上には楽しめません」 あの日寝る前、ころころと転がってきて、少し抱き合ったら満足して 離れていった事を思い出す。 「それは、一回したら満足するって事?」 「満足というか……一度すれば分かりますから興味が失せますね」 条件が変わった。 父に、爬虫類に欲情する中変態と思われたままこの先ずっと生きていくか、 たった一度、大変態行為をするか。 「……分かった。入れる。入れさせてくれ」 「あなたがですか?勃たないんですよね?」 「いや、頑張る」 「まあ、良いですけど」 お父さん不孝をお許し下さい。 僕はあと一度だけ、世界一の頭脳を持ったカメレオンと変態行為をします。
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