Unchain 4
Unchain 4








「L。やはりデスノートを使うのはやめましょう」


しばらく黙って指に前髪を絡めていたニアが、不意に顔を上げた。


「何故だ?」

「今の話を聞いて、夜神が自分で発信器を外したとは
 思えなくなりました」

「何故そう思う」

「勘です」

「勘?」

「あなたは、どうです?Lは、夜神が自分で発信器を外し
 壊しもしないでそのまま放置した『感じ』がしますか?」

「しない。だが他の可能性よりは濃い」

「勘も大事だと、以前あなたは私に教えてくれましたよ」


そう。第六感も、馬鹿には出来ない。
集めた情報を、無意識に分析して全体像を構成している場合もあるからだ。

実際勘で結論を決めて、逆算して捜査を進めるとやはりその通りだった、
というような事も少なくない。
キラ事件もその良い例だ。

だが……今回、教授に関してその勘が完全に外れている。
体の不自由な哀れな老人だと思っていた人が
テロ顔負けの爆破事件を起こし、私に危害を加えようとした。

どうも私は、直接関わった人間に対して認識が甘くなるようだ。
今まで一定期間顔を合わせ続けた人間は多くないし、
彼らに裏切られた事もないので気付かなかったが。

だから夜神も、信用しない。
漠然と感じるよりは1.5倍以上、裏切った可能性が高いと考えた方が良いだろう。


「ニアの中では、どの位の確率だ?」

「夜神が自らの意思であなたを裏切っている可能性40%。
 発信器と切り離されて監禁・拷問されている可能性30%」


何の確率だとも聞かずに、読み上げるようにすらすらと
夜神の現状の可能性とパーセンテージを挙げていく。
思ったより、裏切った可能性が低い。
彼を、速やかに抹殺すべき事態になっている率は、70%か。


「夜神が発信器を身につけたまま死んでいる可能性25%。
 発信器を身につけたまま監禁されている可能性5%」

「まさか。5%も無いだろう。全く動かないんだぞ?」


死体が四日間集合住宅の一室に放置されている可能性と、
夜神が生きたままピンで止められた蝶のように動かずにいる可能性が
合わせて30%?


「発信器がその形状なら、気付かれていない可能性は低くありません」

「……私をからかっているのか?」

「そういう事にしてもいいです。でも一度だけ、チャンスを下さい。
 教授のアパートに突入させて下さい」

「夜神を救出する為に?夜神はいない可能性の方が高いぞ?
 居ても生きている可能性は5%なんだろう?」


元々、どんな場合も夜神を助けに行く事など考えていなかったし
本人にも伝えてある。

もし監禁されても、自力で脱出してくるなら良し、
殺されたらそれはそれで仕方のない事だと思っていた。
そのための身代わりだ。


「夜神の居場所は、教授に吐かせてみせます」

「本気で夜神を助けるつもりなら、逆に命取りになる可能性が高いが」


発信器と切り離されて別の場所に監禁されているなら
突入と同時に死体になる可能性は80%を越える。


「この三日で監禁先の候補は割り出せなかったのでしょう?
 突入しなくてもこのまま殺すしかないじゃないですか」

「教授はあの体だ。夜神から取り入ったのでなければ、必ず
 夜神を取り押さえた仲間がいるぞ?」

「……兵隊は、貸して下さい」


ニアが突然、夜神の為に動こうとしている。
さっきまで殺す算段をしていたのに。
一体、何故だ?


「発信器が気付かれていない可能性というよりは、
 彼が裏切っていない可能性が高いと思っているんです」


そう。彼の読みでは、夜神が裏切っていない可能性60%。
内、25%は既に死体らしいが。


「何を根拠に?」

「彼は、『また来る』と言いました。それだけじゃいけませんか?」

「自分が何を言っているのか分かっているのか?」

「分かっているつもりです」


夜神を助けられる5%の可能性に賭けて、
70%の私の危険は省みないと言うのか?


「お願いします」


我が侭を言わない子だ。
自分の感情を露わにした事も、意思を通そうとした事も、
いや、意思がある様子すら殆ど見せたことのないニア。

そのニアがそこまで言うのなら、夜神が自分の意志で私を裏切ったのか、
そうでないのか、確かめるのも悪くないか……と思ってしまった。


「……分かった。あなたに行かせる位なら私が行くが
 九時間以内に救出出来なければ、死刑囚と夜神の名前を
 デスノートに書く」

「ありがとうございます」



やはりどこか、安堵している自分がいる。

気を付けていても、情というのは移ってしまうものなのか。


死んでいても良い。
ニアの為にも、夜神が裏切っていないと良いと思った。





--了--





※「了」と言いながら超続いてます。

※ニアの、おもちゃ買って来いとか飛行機に乗るのに付き添えとかそういうのは
 Lにとっては我が侭の内に入りません。自分も普通にやってる事なので。






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