Unchain 2
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それにしても、発信器がまだ生きているのも奇妙だ。
見つけ次第壊すのが定石だが、見つかっていないのだろうか?


発信器は夜神自身には容易には取り外せない物だった。
考えられる事は、

一つ目。奥の間で殺されて今発信器がある場所に死体を運ばれた。
二つ目。発信器のある場所に連れて行かれて、殺された。
三つ目。今も生きて、発信器のある場所にいる。

発信器の存在に気付かれず、夜神が今も身に着けたままという仮定だが、
一日や二日ならともかく、四日目ともなるとさすがにどれも無理がある。
死体をそれだけの期間放っておけば必ず臭うし、
生きている人間をそんなピンポイントに拘束し続ける事も難しい。

四つ目。誰かに、発信器を外された。

意に反して口を割らされたのか、身ぐるみ剥がれたのか。
この場合も夜神の生死は怪しくなるが、それより、拷問を受けて
私の情報やこの屋敷の事を話されてしまっては、洒落にならない。

五つ目。夜神自身が発信器を取り外した。

……これは夜神の裏切りを意味し、また誰かの協力を得ている事から
事実上夜神が教授側の人間になったという証だ。

発信器が夜神から外されている、というのは、
いずれにせよ最悪の想像に繋がる。

そして外見上は発信器だと分かりにくい事、取り外しが面倒な事から
どちらかというと夜神が自分で(教授の協力を得て)外した可能性の方が
高い筈だった。



『盗聴防止に妨害電波を出しているのですか』

『それでは本音で話しましょう。僕はアーロンではなく、キラだった者です』

『今はLに殺人の手段を封じられて、Lに飼われています』

『信じられませんか?では、L……あなたにとってはアーロンだが、
 彼から直接聞いたあなたの情報を言いましょうか?』

『あなたはLと会ってどうするつもりだったのですか?
 単純に会いたいだけならお膳立てします。
 そうでないのなら……僕は、あなたに協力できる』


……私と話している時と何も変わらぬ夜神の声と、カチ、カチという
キーボードの音が聞こえるような気がする。
嫌な想像だが、当たっているような気がしてならない。




「なぜ、そんなに発信器に拘るのですか?」


その時、ニアがぽつりと言った。
不意を打たれて、指を甘噛みしていた歯がガリ、と爪を削ってしまう。


「……拘っている訳ではない。教授かその仲間が夜神の死体を始末するならば
 その時に捕縛出来るから観察していただけだ」

「でもそれももう、時間切れですよね」

「ああ。充分すぎる程待った」

「本当にあなたにしては、待ちましたね。夜神に情が移りましたか?」

「まさか。その後の対応を考えていただけだ。もう一刻の猶予もない」

「はい」



これまでも自らの身の安全の為に、沢山の犠牲を出してきた。
今更戸籍もない殺人犯の命一つ、惜しむ事もない。

夜神が裏切ったのであろうが、拷問されているのであろうが、
出来るだけ早く、何かを話される前に始末しなければならない。


「……やはり、『あれ』を使うのは気が進みませんが」

「あなたにやれとは言わない。私が書く」

「取り敢えず、近く処刑予定の死刑囚をリストアップします」

「頼む」


遂に。
ニアと私の手元に置いておいた、デスノートの切れ端を使う時が来た。

特に目的を持って取っておいた訳ではない。
しかし夜神を解放してからは、ニアも私も常に身につけている。
彼が万が一デスノートを隠していてそれを使った場合、
「夜神月」の名を書き込むためだ。

ニアは、それを使えば夜神と同じレベルに墜ちると嫌っているが
目的が果たせれば手段を問う必要はない。
こんな事を言えば、私も既に夜神と同じ場所に墜ちていると
苦い顔をするのだろうか。

とは言え、出来れば使いたくなかったので、ノート本体が焼却されていても
使えるのかどうかは確認していなかった。

今回はまず、死刑囚が本来の処刑時間の十分前に死ぬように名前を書く。
彼の人生の内の十分間を不当に奪うのだから、安らかに死なせてやる。

その通りに死ねば、次は夜神だ。





夜神は、味方に付ければ頼もしいが、敵に回られるとやっかいな人物だと
思ったことがある。

最強の、クイーン。

今回、私が上手く痕跡を消して姿をくらまし、狙われる事がなくなっても
今後教授と行動を共にするのならば夜神は闇の住人となるだろう。

彼がマフィアや闇ブローカーの手に落ちる位なら、殺した方が社会のためだ。
夜神がブレインになれば犯罪手口は飛躍的に進化し、
警察も私も仕事がやりづらくなるだろう。
そしていつかは彼自身がトップに立ち、必ず私の前に立ちはだかる。

彼に首輪を付けられるのは、この世で私だけだという自負がある。
その私に敵対するというのなら……抹殺すべきだ。


「L。イランに死刑が確定している囚人がいます。
 執行を明日にして貰いました」

「分かった。明朝、私が名前を書く」


ニアは黙ったまま、何か言いたげな顔で私を見つめる。
今書いておけという事だろうか。


「本当に、殺せるでしょうか?」

「そうだな。もしデスノートが効かなければ、他の対策を講じる必要もある」

「そういう意味ではなく」

「早いに越したことはない。そのイランの執行は、何時だ?」

「イギリス時間で明日正午、九時間後です」


その時視界の隅で、何かが動いた。







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