Unchain 1 「L。もうやめませんか?」 振り向くとニアがうんざりした顔でこちらを見ていた。 「ここまで来れば、もう二度と動かないと見て良いでしょう」 昨日戻ったワイミーズハウスの別館で、私は目の前のモニタに目を戻す。 教授のフラットの俯瞰図、間取りまでは分からないがその一点で 発信器の位置を示す赤い光が明滅している。 その赤は、いつまで経っても微動だにしない。 「夜神はもう死んでいるか、あるいはその発信器の側にいないかどちらかです」 そんな事は、分かり切っている。 その場合、死んでくれている方が我々にとってありがたいという事も。 「……死体なら、そろそろ始末しないと不味いだろうな」 「そうですね。それで動くのを待っていたのですか?」 「それもある」 「でももう、四日目です」 そう、夜神が消えてから、四日が経っていた。 「その間、死体を全く動かさず放置というのも考えにくいですから、 やはり発信器だけそこにある、と考えた方が良いでしょうね」 やはり、最悪のパターンか。 あの日、夜神に発信器と小型マイクを持たせて教授の自宅に向かわせた。 小型マイクは、フラットに入るやいなや雑音で使えなくなった。 教授が妨害電波を出しているのだろう。 盗聴器や盗撮カメラに詳しいらしいので想定内だ。 もし偽物の「アーロン」なら、小型インカムで本物の指示を受けながら 受け答えする、普通はそう考える。 その手段を封じてくれれば、逆に好都合だ。 夜神自身が、短時間会うだけの「アーロン」としては、ほぼ完璧なのだから。 発信器の赤い点はスムーズに教授の部屋の玄関を抜け、奥に通された。 不自然な停止も動きもない。 打ち合わせた通り、再会を喜ぶ和やかでしらじらしい挨拶をしたのだろう。 それから三十分後、赤い点は現在の場所まで移動し、 以降今に至るまで全く動いていない。 これは一体、どういう事か。 その三十分を、想像する。 訪問の理由は一応、偶々論文を目にしたから懐かしくなって、と メールしてあるが、教授に掛かれば一刀両断だろう。 それから彼は、本物の「アーロン」かどうか確かめる為に、いくつか 質問をする。 「アーロン」である事を確信したら、次は「L」か「コイル」か 「ドヌーヴ」なのか、カマを掛ける筈だ。 一応否定はするが、更に三人の内の誰なのかを特定したがる場合は、 復讐目的である可能性が高いので出来るだけ早く撤退する事。 そう伝えたが、悠長だったか。 「アーロン」である事を確認するだけで充分だったという事だろうか? 何らかの理由で「アーロン=L」あるいは「=ドヌーヴ」の確信を持っていて いずれにせよ捕獲……あるいは抹殺できれば良かった?
|