treak yet treat 1 何だか、脚の間に違和感がある。 何かが乗っているような、だがそれにしては重くない……。 寝ぼけた頭でそこまで考え、ある可能性に思い至ってカッと目を見開きながら頭を上げると。 口元に衝撃を受けた。 どうやら、僕に顔を近づけようとしていた竜崎に顎をぶつけてしまったらしい。 その彼は、僕の身体に跨がっている。 「お、おま、今、」 「誤解です!」 竜崎は両手を胸の前で上げて、顔を仰け反らせた。 昨夜はもう、この変態と同じベッドで寝るのが嫌で。 一人で毛布を持って長椅子で寝た。 竜崎も特に追ってくる様子はなかったのだが……。 さっき(今何時だ?)確かに、こいつは僕の股間に顔を埋めていた……! 「違うんです」 「……ほう。どう違うのか、説明して貰おうか」 押し殺しているつもりだが、自分の声が怒りでみっともなく震える。 竜崎が落ち着き払っているのがまた憎らしかった。 「前も言いましたが、私、結構鼻が利くんです」 「……」 「それで、さっきから微かに鉄の匂いがするんですよね」 「……鉄?」 「はい。というか、血液に限りなく似た臭いです」 血液……? 顔から、血の気が引く。 「私が怪我をしていない以上、匂いの元はあなたという事になりますが、 や、夜神くん?」 僕は大股でバスルームに向かった。 最、悪だ……。 気易く最悪などという言葉を使いたくはないが、最悪としか言えない。 「あの、話の続きをしていいですか?」 寝室に戻ると、竜崎はまだ長椅子の上にしゃがんでいた。 「……えっと。何だったっけ」 「あなたから血の匂いがしているのではないかと思ってあなたに近付いた所です。 で、怪我はしていなさそうだったので一番有り得る、」 「人の股に顔をくっつけて匂いを嗅いでいたのか。 変態かお前は」 と言いつつ、彼の変態さ加減を冷静に受け止め始めている自分が怖い。 「それで?どうでした?」 「ああ……まあ、正解だよ。 サニタリーパッド、買ってたよな。貸してくれ」 「返して貰う必要はありません」 竜崎が言うので、僕も普通にバスルームに戻り、戸棚の中からそれらしき物を取り出す。 羽が付いたタイプで(TVCMで得た知識だ)、夜用と書いてあった。 袋の説明書に従い、新しい下着に装着する。 ボクサーブリーフなので、「羽根」部分は無用の長物としか言いようがなかった。 そして、血液のついた下着を洗う。 タンパク質だから、湯より水が良いのか……。 首を傾げながら寝室に戻ると、Lはベッドの上に移動して膝を抱えて座っていた。 「えっと。どの位漏れてました?」 「下着にちょっとついた位。 下手したらパジャマやソファにも血が付く所だったから、早めに気づけて良かったよ。 その点は礼を言う。ありがとう」 「どういたしまして」 本当は落ち着き払っている場合ではない。 自分の体内から。 しかもあり得べからざる所からの出血。 本当なら叫び出したい位、混乱している。 だが、竜崎の前で弱みを見せるのは絶対嫌だった。 その一念のみで、僕は平静な顔をしていられる。 「でも、悪い事ばかりでもありません」 しかしそんな僕の強がりを見抜いたように、竜崎は微笑んだ。 「あなたが完全に女性だと、証明されました」 「まだ疑ってたのか……」 「ええ、まあ。 でも、生殖機能まであるとすると、疑いようもありませんね」 「……」 生殖、機能……そうか……そういう事になるか……。 下手をしたら、僕は妊娠……出来る……。 その事に思い至った途端、強烈な吐き気に襲われて僕はまたバスルームに走る。 のっそりと着いて来た竜崎は入り口で、 「大丈夫ですか?私は違いますよ?」 「……ああ?」 「つわりだとしても、私が父親ではないという事です」 思わず拳を握りしめたが、殴る力は残っていない。 「気持ち悪い事、言うな……。 それに、月経があるんだから……」 また、吐き気が。 僕は洗面所にすがりついたまましゃがみ込んでしまった。
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