優勝杯妻 3 「勿論、罪は一生掛けて償って貰うつもりですが」 「……具体的にどうやって?どうすれば罪を償えるんだ?」 竜崎は、また驚いたように目を見開いたが 今度はニタリと笑った。 「その質問があなたの口から出るのを待っていました。 あなたに罪を償う気持ちがあるのかどうかが大切でしたから」 「……」 「あなたが今まで殺したのは、私の計算では763人。 私の仕事を手伝って、それだけの人数の命を助けて下さい」 「……」 元々僕は。 人を殺したくて殺した訳じゃない。 後悔した事はないが、「キラ」を守る為だけに殺した人たち…… FBIのメンバーや南空ナオミは、僕がもっと早く上手く立ち回っていれば 殺さずに済んだのではないかと少し考えた。 償っても良いと思うのはその辺りだけだが、今は竜崎に逆らえない。 Lの仕事というのは悪人を捕まえる事だろうから、 僕がしたい事と言う意味では望むところというのが本音だ。 「勿論命は戻って来ない以上、償いに終わりはありませんが、 そこを一つの目安にしましょう」 「ああ……分かった」 竜崎は、何故かそこで僕の顔を掴み、至近距離で凝視した後 唇を重ねてきた。 セックスの最初や最中の激しいキスではない、どちらかというと 「対『夜神月』用」だと思った事のある、優しいキスに近い。 ゆっくりと入り込んでくる舌、ゆっくりと絡め取られる唾液。 唇はやがて近づいて来た時の逆回りの様に、緩やかに離れていった。 違うのは、二人の唇の間に粘った糸が一筋を引いている事だけだ。 「ん……何」 「月くん。あなたは歴史上でも稀に見る大量殺人犯です」 「何だよ今更」 「それでも私は、あなたを幸せにしたい」 じっと見つめられて、瞬きも出来ない。 眼球が乾いて、涙が出そうだった。 「だから私を信じて下さい。 763人の命を救う事、それがあなたの幸せへの第一歩です」 「どうして……」 「理屈なんかいいんです。とにかく、私を信じて、人助けをして下さい」 ……そんな事言わなくても、命令すればいいだろ。 僕はおまえに逆らえないんだから。 などとは勿論言わない。 トロフィーワイフの条件は、美しいだけじゃなく、夫に従順な事もだろ? 「ああ、信じるよ。 それに僕は元々世界を救う目的でキラになったんだしね」 「ええ。その心意気は買います」 「……なあ」 「何ですか?」 「……いや、何でもない」 「そうですか。おやすみなさい」 「おやすみ」 おまえは何故、僕を幸せにしたいだなんて言うんだ? キラが物珍しい間は傍に置いておいて、飽きたり容色が衰えたりしたら 捨てればいいだろ? 愛していると言われても、消耗品だと言われても、僕の態度は変わらない。 変われない。 ただ無言でおまえの要求を受け入れ、飼われるだけだ。 それなのに。 分からないよ。 何故おまえが、僕に甘い顔を見せるなんて、そんな無駄な事をするのか。 本当はそう続けたかったのだが、きっとまたはぐらかされるだろうから。 僕は黙って寝返りを打ち、竜崎に背を向けた。 --了-- ※「トロフィーワイフ」はLにすれば褒め言葉の一種かも知れませんが、 月にとっては屈辱です。 月は可哀想ですが、きっとLはこんな感じ。 それにこのLは大人なので、月の本心とかも見抜いてそうです。
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