天下無敵 1
天下無敵 1








「というわけで、今日中には戻って来るつもりなんですが、
 夜中にはなると思います」

「仮にも海外に行くのですから、もう少し少しゆっくりされては?」

「いいえ。本当に大した用事ではないんですよ。
 本来ならワタリに頼んだ事なのですが……」



ワタリさんの、身内が亡くなられたらしい。
何となく、竜崎やワタリさんには血縁やしがらみのような物が
ない気がしていたから意外だった。

勿論、いつもここに居る訳ではないワタリさんが誰の葬式に出ようが
結婚式に出ようが普段なら僕の耳に入る事はない。

丁度その日、「L」にも緊急の用件が入ったので
竜崎自身が「ワタリ」として、隣国の現場に行かなければならない事に
なったのだ。


「夜神くんをお願いします。キラ容疑は晴れましたが、
 別件でまだ消化し切れていない部分があります。
 非公式に監視を続ける事には、夜神くんも同意してくれています。
 ですよね?」

「ああ……まあ」

「バスルームまでは監視しなくて良いですが、入るときは
 モバイルや書く物は置いて行かせて下さい」

「分かってますよ。他は基本的に目を離さない、と」

「はい。あと……必要以上の会話や接触も控えて下さい」

「それは困ったな。会話出来ないのでは、手足をもがれたようななものだ」

「ですから。
 夜神くん相手に、詐欺師の仕事はしなくていいんですよ……アイバー」


竜崎は、唯一残ったLの手下……アイバーに、一日僕の監視をさせるという。

最初は僕も一緒に連れて行くつもりだったらしいが、さすがにそれは
父をはじめ、捜査本部の人達を納得させられないと拒んだ。

(何しろ僕はパスポートすら持っていないのだ。
 何とかすると言われても違法行為と分かっていて加担する訳には行かない)

そこで、アイバーに白羽の矢が立った訳だ。

部外者に僕が未だに疑われているなどと言ってしまうのはどうかと思ったが
そこは信頼できる相手なので大丈夫だという。
その割りに、アイバーには僕に近づき過ぎないようにとしつこいほど
念を押していた。


「任せて下さい、L。ほら、飛行機に遅れますよ?」

「いくらでも待たせますよ。でも、まあこうしていても仕方ないので行きます。
 じゃあ夜神くん、良い子にしていて下さいね?」

「……下らない事言ってないでさっさと行け」





竜崎が乗ったエレベーターの扉が閉まると、アイバーはこちらを向き
にっこりと笑って手を差し出した。


「という事で今日一日よろしくライトくん。ライトって呼んでいいですか?」

「ええ……」

「私も、気軽に.アイバーと呼んで下さい。
 『アイバー・サン』は、やっぱり違和感があるよ」


初めて会った日から親しげに「ライトくん」と呼んでいたが、
竜崎が行った途端これか。
誰とでも打ち解けられると評判の詐欺師だが、日本語も上手く操って
馴れ馴れしすぎない距離感を出せるのは、さすがだ。


「ではアイバー。これから、どうしましょう?」

「私は遊び相手がいなくなって暇なんでね。
 ライトが行く所に着いて行きますよ」


遊び相手……ウエディの事か。
彼女は、Lがキラ事件の収束を宣言したその日に帰国した。

アイバーとウエディが仲睦まじげにしていたという事はないが似合いの二人だ。
アウェイ同士、それなりに親しくしていたのかも知れない。
割り切った関係、という奴だったのかも知れないな……。


「今日は、午前中捜査本部でキラ事件の被害者のデータを纏めて
 午後は部屋で勉強するつもりです。
 大学も長い事休んでいますが、レポートで何とかなる授業もあるので」

「そう。どちらも手伝えないけど、傍で応援してるから頑張って」

「はい……あの、ウエディから僕の事何か聞いてますか?」

「何かって?君とウエディ、何か接点があったんですか?」

「いいえ。ありませんが、凄い美人だったのでちょっと気になって」


にっこり笑って言うと、信じたかどうか分からないがアイバーも
ニッと笑った。
取り敢えずは、竜崎と僕の関係は聞いていないと見て良いか……。






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