優勝杯妻 2 終わった後、ベッドの上で並んで寝ている時間は、軽く拷問だ。 体はすっきりしている、頭は少しぼうっとしている、そこへ もって 竜崎の精神攻撃が来るのだから。 「やっぱり、毎日しましょうね?月くん」 「……」 「そうすれば狭くなりすぎません」 ああ鬱陶しい……。 どうしてこいつはこんな奴なんだろう。 どこまで僕のプライドを傷つければ、弄れば気が済むのだろう。 「僕の体が気に入らなければ、しなければ良い」 「そんな事言ってませんよ」 「僕はおまえと違って、おまえが誰と寝ても気にしないから 買うなり拾うなり、どこかで性欲処理すれば良いよ」 竜崎は、驚いたように目を見開いた。 わざとらしい。 「一瞬でもあなたから目を離すなんて、そんな怖い事出来ませんよ。 ですから必然的に、性欲処理はあなたにして貰わなければ」 「監禁するなり、誰かに監視させるなりすればいいだろ? 大体何でそんなに、僕を傍に置く事に執着するんだ?」 「恋をしたからだと、前にも言いましたが?」 「そんな言葉で、納得出来るか!」 「そう言われましても」 この扱いは、とても恋をしている人間のそれだとは思えない。 それに僕を個人所有するとか言ってたじゃないか。 「今の僕は、絶対におまえに逆らえない、おまえのオモチャだ。 使う時以外はオモチャ箱にしまっておけば良いだろう?」 竜崎は指を咥え、思案顔で天井を睨んだ。 「そうなんですけどね……我ながらあなたに執着する理由は 言うに言われぬとしか言いようがないんですが」 言いながら、困惑している訳でもなさそうな顔でぽつりぽつりと口を開く。 「以前、私は個人的な資産は殆ど持っていないと言いましたが、 実際自由に使えるお金は多いので、社会的成功者と言えます。 つまりお金持ちです」 「ああ。分かってる」 「一般に、そういう人は目立って美しい妻を娶りがちです」 「まあ、そうかな」 「そういう妻の事をトロフィー・ワイフと言うんですよ」 「……へぇ」 「いい車や時計と同じで、これだけの物を買える力を手に入れたんだと 持っているんだと、誇示できる材料ですから」 嫌な話だな。 いや、嫌な方向に話が行く予感がする。 「でも、私はいくら美しくても頭が空っぽな妻なんか要りません」 「……」 「その点あなたは、美しいだけじゃなく、私以外には比類なき頭脳も 持っている。その上、カラダも良い」 「ちょっと待て」 「この上なく理想的なトロフィーワイフです」 「ちょっと待てって!僕は、女じゃないだろう!おまえの妻でもない」 思わず悲鳴をあげてしまった。 確かに僕は一旦竜崎に負けたけれど。 戦利品扱いも女扱いもまっぴらごめんだ。 「当たり前です。あなたが女性だったら、もう入籍してます」 真顔で言うのに、思わず頭を抱える。 「いや……ワシントンDCかニューヨーク辺りに一度籍を移せば 同性でも結婚できますよね」 「おまえ戸籍あるの?」 「偽造ならいくつか」 「……」 背筋がぞわりとした。 自分でも意外だが、男に抱かれる事よりも、戸籍をいじられる事の方に 嫌悪感を覚えるらしい。 「……残念ながら、男の妻じゃ自慢にもならない。 ナントカ・ワイフにはなれないよ」 「なら性転換してくれますか? あなたはまだ骨格が細いので女性として十分やっていけますよ」 「い・や・だ!」 僕が思わず声を張り上げると、竜崎は不意に向こうを向いた。 何だ? だが、良く見れば、その肩が少し震えている。 笑って……いるのか? 「……揶揄ったな?」 「はい……すみません」 まだ震える声。 こんな時なのに、竜崎が本気で笑った顔を見たくなった。 それでその肩を掴んだが、くるりと振り向いた顔は残念ながら既に真顔に戻っている。 「でも、半分は本気ですよ?」 「……」 「前にも言ったように、月くんが私を信用し、私の信用も勝ち取る事が出来たら 良い玉の輿に乗れたと思える程度の生活はさせてあげられます」 「……」 そんなの、全く嬉しくない。 僕を解放さえしてくれれば、竜崎に養って貰う必要なんか全くない。 僕は僕の実力で、いくらでも望みどおりの生活が出来るんだから。
|