トゥーランドット「心に秘めた大きな愛です」5 「でも、皆がプーティンに強姦されて自殺した訳ではない。 連続殺人の中に偶然の自殺や事故が混ざっている可能性も なくはないが、あなたはそうは考えなかった」 「……」 「それぞれの実行犯に、指示をした人間が居る……」 そこで夜神は、上を向いて目を閉じた。 ここまでは正解、ここからが正念場という事だろう。 「それがトゥーランドットかどうかは分かりませんが、 あなたにはそれが誰か、分かったんですね?」 「……」 「やはりあの動画ですか?」 ぴくり。 今度は、頬が引き攣った。 「私も彼女が、怪しいと思いました。と同時に、真犯人なら 動画を撮られているのを分かっていてあんな風に笑うだろうか?とも 思いました」 「……」 「……彼女は、狂っていたんですね?」 夜神は顎を引いて、ふぅーっと、長い息を吐く。 やがて、観念したように、 「……そうだな」 声を絞り出した。 「狂っていて、あれだけの人間を操って大犯罪を起こした。 ……サイコパスだったんですね?」 「その、通りだ」 「ならば何故、私に報告してくれなかったんですか? そのまま私に推理を伝えれば、あなたの勝ちでしたよ?」 「いや。あの表情しか根拠はなかったからな。 確信したのは対面して喋ってからだよ」 「それでも、その後で報告すれば良かった。 なのに何故、」 ……即、殺したのだ? 何故、私を裏切った? 何故……、キラに戻った? 「私は、あなたが腕時計の中に隠していたデスノートで キャラフと校長を殺したと考えています」 「……」 「だとしたら、私はあなたを許す事が出来ません」 夜神もまた、「笑顔」に似た表情……泣きそうにも見える顔で 少し俯いた。 「うん」 「……デスノートで、殺したんですか?」 「……ああ」 聞こえるか聞こえないかの小さな肯定、予想していたと言うのに 私は震えてしまう。 何故だ……! 何故、そんな事を。 「……ライト君。少し場所を変えましょうか」 「……」 「広い……海でも見ながら、話しませんか」 夜神が緩慢に立ち上がったのを確認して、私はドアを開けた。 海岸線のドライブウェイを走り、見晴らしの良い高台に駐車する。 夜神は車を降りると、さすがに気持ちよさそうに伸びをした。 「どうですか?」 「いいね。アメリカって感じがする」 そう言って低い柵をあっさり乗り越え、海を見に行く。 私も後に続いた。 崖の岩の上に、風に運ばれた砂が増えていく。 海が近付いて来る。 ……私は、沢山の犯罪者をデスノートで裁いた夜神を 「朝日月」に免じて許した。 神に代わって許すというのもおこがましいが、それなりに 覚悟を以て引き受けたつもりだ。 再犯させないよう、彼の一生を見守る事に、私の一生を捧げると。 だが、現在進行形では。 いくら朝日月に惹かれていても、許すわけには行かない……。 夜神にもそれは十分に分かって居るだろう。 だから。 この景色が、この世の見納めになると。 きっと彼は、思っているに違いない。 今、先に立って歩いて行く、彼の心中は一体どのような物だろうか。
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