トゥーランドット「心に秘めた大きな愛です」4
トゥーランドット「心に秘めた大きな愛です」4








『あのルーシーとか言う女の子とのキスは、
 “浮気”とは言わないのか?』

「もう黙れリューク!」


夜神の怒声に、死神がびくん、と肩を竦める。
大した迫力だ。


「女の子とも、キスした訳ですか?」

「捜査の一環だよ……」


夜神は悪びれもせず、溜め息混じりに答えた。


「その子に、男だってバラしたんですか?」

「バラしてない。誰にも気付かれてない」

「よく、分かりません……」


朝日月と、女の子とのキス……許せるような許せないような。
男程ではないが、やはり気分は良くないな。


「協力しないとか言いながら、喋り過ぎだ、リューク。
 下らない嘘もやめろ」

『人間に“死神の目”をやれるって奴か?あれだって嘘じゃない。
 オレは真実を黙っている事はあるが、嘘は吐かない』


死神の、目?


「それって、もしかして相手の寿命が見えたりする訳ですか?」

『本名もな。おまえの本名も見えてるぜ、L』

「……」

『でも、そういう事があるってだけで、あのキャラフとか言う女が
 そうだとはオレは言ってない。
 実際、あの女は死神の目なんか持ってなかった』

「……」

『残念だったな、ライト。クックック』


キャラフ……身代わりの夜神が学園内に居たのに、何故か
同じ学園内に居て、そして死んだ養護教諭。

その養護教諭が、死神の目を持っていると、少なくとも可能性はあると
夜神は思っていた……。
「残念」というのは、何に対して「残念」なんだ?


「どういう、事でしょうか?リュークさん」

『言わない』


もしあの女が、死神の目を持っていたと仮定すれば
「夜神月」の名前が、見えた事になる。


「ライト君は、あの女に殺されかけていた……」

『いや、ムリムリ。デスノートも持ってなかったし。
 それに、あの女の仲間になれば殺さないって話だっただろ?』

「……」

『だろ?ライト。随分気に入られてたもんな』

「リューク……本当にもう、黙ってくれ」


夜神は、あの女に気に入られていた……。
おそらく、仲間にならなければ殺すと脅されていた。

仲間になりたくなくて、殺した……?

いや。
それだけなら、夜神なら一旦「分かった」と返事をして
私に相談するだろう。

私に相談もしなかったと言う事は……最初から、
デスノートを使うつもりだったのだ。


「ライトくん。唐突ですが、勝負はどうなったのですか?」

「勝負」

「はい。あなたと私の推理合戦です。
 あなたは知り得た情報を、全て私に教えてくれると言いました」

「勝負……無し、だよ」

「勝手に決めないで下さい。
 どうか事件のあらましを、話して下さい」

「……」

「その内容如何では、自分の推理力の無さを、
 負けを認めても良いです。私はあなたを」


言えば意味が無くなる。
と思えば、少し言葉が喉に引っかかる。


「……脅したくない」


脅したくないなどと言う言葉が、既に脅しだ。
意味の無い。
自己矛盾した言葉。

だが夜神には、そんな事はどうでも良いのだろう。
小さく溜め息を吐いた。


「僕の、負けで良いよ。
 約束通り、一生おまえに仕える。服従する」

「そんな事を聞いているのではありません」


夜神は無視して窓の外に目を遣り、美しい横顔を見せた。


「分かりました。では、私の推理を聞いて下さい」

「……」

「あなたの様子が変わったのは、プーティンの携帯の
 写真を送って来た後です」

「……」

「だから、プーティンと何かあったのではないかと
 気を揉んだのですが……秘密は、写真の内容にあった」


組んだ膝に置いた、夜神の指がぴく、と震える。


「あの写真には沢山の凄惨な場面が記録されていました。
 その中に、被害者の一人が乱暴された場面と
 その葬式の写真もあった」

「……」

「プーティンは、あの少女を強姦して自殺の要因を
 作ったんですね?」


また、ぴくり。
昔、殆ど動く事の出来ない植物人間に尋問した時の事を思い出した。






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