トゥーランドット「心に秘めた大きな愛です」3
トゥーランドット「心に秘めた大きな愛です」3








ホテルに到着してから、夜神は一言も喋らなかった。
何を聞いても顔を俯かせているだけ。
それは翌日になっても翌々日になっても変わらなかった。



……あれから情報収集した所によると、保健室に居た少女達は
自分と数人の仲間で一連の殺人を行ったと自首したらしい。

しかし、大半の事件が既に事故で処理されている。
明らかに殺人である最後の事件についても、凶器もどこからも
発見されていない事から外部犯という事になりそうだ。

少女達の取り調べは一応続けるが、感受性の強い思春期の集団妄想と
片付けられそうな気配になっている。

まあ、最後の凶器は私が持っているのだが……。


校長は自宅で心臓麻痺で死亡。
教頭のティムールが急遽校長代行をしている。

養護教諭は事務室でこれも心臓麻痺で死亡。
心理学の教師が一人、自己都合で退職したらしい。

在籍生徒の保護者からは、校長が探偵Lに依頼していたとの
声が上がっているが、どこからもその痕跡は見つからず、
校長の嘘だったのではないかとの噂が立っている。

それで生徒達の三分の一程が転校してしまったが、残っているのは
転校先が見つからなかった生徒達だろう。

いずれ転校先を見つけて皆去って行くか、あるいはこのまま
新たな事件が起こらなければ、落ち着いて行くか。
まあ、ここアメリカでは銃乱射事件ほどのインパクトもなく、
やがて事件は風化していくだろう。



そんな事をぽつりぽつりと夜神に伝えたが、反応は少なく
時折瞼をぴくりと震わせるだけだった。

昼過ぎに、メールの到着音が鳴りPCを開いてみる。
FBIのレイ・ペンバーからだった。


“先程、リューも釈放されました。
 これから精神科に向かうようです”

『ありがとうございます。もう事件は終わりですね。
 今後は大きな事項以外は、報告は結構です』

“了解しました。
 朝日月さんの様子はどうでしょうか?”

『ああ、帰りのエスコートはキャンセルです。
 少し休ませた後、私が直接連れ帰ります』

“それは残念。帰りは英語を教えなくて良いとの事でしたので
 楽しい旅になるかと思っていたのですが”


……紹介してくれたナオミによれば、FBI一口が堅くて真面目な男、
という触れ込みだったが。
男女では印象が違うのか、それともこれもアメリカンジョークなのか。

この調子では、アメリカに来る機内でも何かしたのではないかと
気になってしまう。
まあ、ペンバーが夜神に教えた私のアドレスには何も来なかったので
夜神の方では全く気が無かったのだと思うが……。



「さて」


夜神が私に全く口を利かない理由。

それは、彼が別の意味で私を裏切ったからだ。

夜神が学園を去る直前の、二つの心臓麻痺。
偶然である筈が無い。


……デスノートを使ったとしか、思えない。


切れ端でも使えるのか……持ち物は全て捨てさせたつもりだが。
いや。そう言えば一つだけ、許した物があった。


「夜神くん。その腕時計、見せて貰って良いですか?」


夜神は黙ったまま左腕を差し出す。


「やっぱり良いです」


簡単に調べさせるという事は、もう処分したか。
まあ私でもそうする。

問題は何故、夜神がその二人を殺したか、だ。
もし彼等が犯人で、それを確信したというのなら、
司法の手に引き渡せば私を出し抜ける。
彼は自由を手に入れる事が出来たのだ。

なのに、何故。

これ以上本人にいくら尋ねても答えてくれそうにはない。
……今日は少し、矛先を変えてみるか。


「ところでリュークさん」

『ん?何だ?』

「ライトくんがこんな調子ですので、あの学園内で何があったか
 あなたが教えて下さい」

『やだね。オレはライトにも協力しないが、Lにもしない』

「リンゴ以外で人間界で気に入っている食べ物は無いんですか?」

『今の所、ないな。だからもうオレを懐柔するのは無理って事だ』

「ライト君も、助けないんですよね?助けた事ないんですか?一度も?」

『ああ……えっと。ライトがあのでかい男に襲われた時は、ちょっと
 焦っただけだから』

「襲われた?!」

『あ……』


死神が、しまった、という風に口を押さえる。
その滑稽な仕草を、笑う余裕も無かった。


「襲われたって、どういう事ですか?ライト君。
 一体……怪我は、ちょっと体、見せて下さい!」

「待て待て!違うって!」


さすがの夜神も、焦ったように三日ぶりに口を開いた。


「……違うんだ。同じ寮のプーティンって奴が
 僕を誘って来たんだが……リュークがリンゴを動かして
 驚かせて助けてくれたんだ」

『オレはそんなつもりなかったけどな』

「襲われたって……」

「大丈夫。ちょっとベッドに押し倒されただけで、何もない。
 正確に言うと“襲われかけた”だ」

「ライト君……ちょっと……って」

『べったりキスもされてたけどなー』

「キ……」


夜神が他の男にベッドに押し倒されてキスされている……。
想像しただけで、目眩がしそうだ。






  • トゥーランドット「心に秘めた大きな愛です」4

  • 戻る
  • SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送