トゥーランドット「心に秘めた大きな愛です」2
トゥーランドット「心に秘めた大きな愛です」2








「現在この学園は、偽物の校長がつつがなく運営している。
 誰も知らない校長の死を、何故あなたが知っていたのですか?」


夜神はいきなり、荷物を放り出して走り出す。
予想外の行動に、私も慌てて後を追った。

夜神はスカートを翻し、寮を出て本館に駆け込む。
そして、校長室のドアを乱暴に開いた。


「キャラフ先生……いや、朝日月さん」


校長は丁度電話を置いた所で、夜神を見て少し眉を上げたが
困ったような顔で、しかし落ち着いて肩を竦めた。


「あなたに謝らなければならない事があります」

「……」


夜神は荒い息で肩を上下させながら、ゆっくり頷く。


「実は、私は校長のアルタウムではありません。
 変装術と声帯模写を買われてアルタウムに雇われた
 しがない詐欺師です」

「……誰も、知らない、のですか」

「“家族にも気付かれない”が私のモットーですから。
 でも今、本物の校長が自宅で急死したと連絡がありました。
 私はそれが学園に知れ渡る前に、速やかに撤収します」


偽アルタウムは静かに、しかし素早く鞄に本やPCを詰め込むと
ネクタイを締め直した。


「……そんな事が出来る詐欺師は、世界広しと言えど一人しか知りません。
 でもその人物は、こんなケチな……というか報酬の少なそうな仕事は
 受けなさそうなんですが」


私がいきなり声を掛けても、偽アルタウムは驚きもせず
微笑んでウインクをした。


「アルタウム氏が、“L”に仕事を依頼していると聞いて
 引き受ける事にしたんです。
 もしかしたら“L”のお顔を拝めるかも知れない、と思いまして」

「……」

「あなたが、Lですね?」


私は苦虫を噛み潰したような顔をしていたのだろう。
彼は、可笑しそうに笑った。


「……思ったより若い、とか言わないんですか」

「思いましたが口にする程じゃ無い」

「こんな手段を使わなくても、あなたが会いたいと言えば
 会いましたよ?……アイバー」

「ほう。どんな口実で?」

「……とにかく。別に顔を見られても構わない程には
 私はあなたを信頼しています。ですから」

「分かりましたよ。次の依頼をお待ちしています」


黙ったままの夜神を見ると、偽アルタウム……アイバーと私が
知り合いだった事にただ驚いているようだった。


「月さんは、Lのいい人ですか?」

「いや、そんな……」

「こんな素敵な人を口説きもしないとしたら、Lは男として
 欠陥があるとしか思えませんね」


彼の手が、目を見開いた夜神の顎に触れたのを見て頭に血が上る。
冷静にならなければ、と思える程の冷静さは持っているつもりだったが
行動は私の理性を裏切った。


ぱしっ!


無意識にアイバーの手を思い切り撥ねのける。


「口説いたんですか?アイバー」

「え……」

「口説かれたんですか?月さん」


夜神は少し唇を噛んだ後、「分からない……」と小さく呟いた。


「分からないとはどういう事ですか?」

「だから。アイバーはいつからアイバーだったんだ?
 それが分からないから、」

「それは、あなたを口説いたのが校長かアイバーか
 分からないという意味ですね?」


自分でも不味いと思う程粘着質な口調になってしまったが、
アイバーに夜神との間に割って入られて、少し頭が冷える。


「最初の面接以外は、全部僕ですよ。
 口説いたという程の事もない、美人に対するエチケット程度です。
 ねえ?月さん」

「ああ……ええ……」


まあ、この辺りが落とし所だろう。
アイバーの機転に少し感謝しながら、私は夜神の手を取って
歩き始めた。


「L、L、待てよ」

「私の車で帰ります」

「寮の荷物は」

「そんな物要りません」

「僕の痕跡が残るのは不味いだろう」

「……」


そんな物、後で取りに来させたら良いが。
その前に警察が来たら面倒か……。

と思っていると、校舎から大荷物のアイバーが出て来た。
自分の鞄以外に夜神のキャリーバッグをぶら下げ、私が送った段ボールを
抱えている。


「忘れ物です」

「……どうも」

「ところで私、アルタウムの車はもう使えないんで
 どこかタクシーを拾える所まで送って貰えませんか?」


私は夜神の手を握ったまま、溜め息を吐いて仕方なく頷いた。






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