トゥーランドット「泣くな、リュー」6 「そしてそれが、答えよ」 え……僕の問いに対する答えでもある、という事か? まさか。 「……Lをおびき出す為だけに、一連の事件を起こしたと?」 「また正解」 女は、クイズ番組の司会者のように大袈裟に拍手をした。 「私はキラだから、Lを始末しておかないと」 「本物のキラなら、こんな手が込んだ事する必要ないでしょう?」 「ゲームを楽しんでるのよ。 Lが興味を持ちそうな事件を考えて、それに相応しい舞台を選んで」 この女子校の事か……。 「死ぬのは本当に誰でも良かった。 そして秘密の掲示板での謎めいたやりとり。Lが興味を持ちそうでしょう? 校長のアルタウムに近付いて協力者にして」 「アルタウムも、共犯者なんですか?」 「当たり前じゃない。ラビニオを車で追い回して轢いたのは彼。 それをもみ消すのは、校長じゃなければ出来ないわ」 「……」 「プーティンも一度寝てやったら簡単に言う事聞いてくれたけど。 校長は他にも、情報を操作してくれたり、色々助けてくれたの。 アマンダの事も、エミリーが自白しなければ事故死で 片付けてくれるでしょうね」 「どうかしら。エミリーはもしかしたら、自首するかも知れませんよ?」 「別に構わないわ。エミリーに殺人を示唆したのはリュー。 他も大体リューが主犯で片付くわね」 「そうなればリューは、あなたに指示されたと白状するでしょう」 「どうかしら?あの子は自分が主犯だと信じている筈よ。 それに、もし私のせいにしようとしても証拠がないわ」 それは……確かに。 アーチーがカリウムを注射された事も、今更証明不可能だ。 「あの生徒は責任感が強い反面精神的に弱くて妄想癖があるから。 身近な教師であった私に、自分の罪を投影して 逃避してしまうかも知れないわね」 キャラフは白々しく困ったように眉を寄せ、頬に手を当てて 首を傾げた。 「……そういう、結末になったとしても。 あなたの犯罪も、ここで終わりですね」 「いいのよ。目的は達成したから」 「……」 「沢山の人が私が思うように動いて行くのはとても楽しかったけど。 “L”の顔が見られたから、もういいのよ」 「……」 「あら。言ったでしょう?私、顔を見れば殺せるのよ?」 Lに、校門の前まで送って貰った時か。 あの時は確かに、行きは警備員に開けて貰ったが 帰りはミス・ピング……つまり、この女に開けて貰った……。 「あの、目がぎょろっとした黒髪の男。Lでしょう?」 「……」 「何となく、親密そうな雰囲気だったけれど。 あなたの恋人でもあるのかしら?」 「……」 ハッタリだ。答える必要はない。 ……Lの名前だって、分かる筈など、無い。 『クックック……』 その時、斜め後ろを飛んでいた死神が笑った。 そうか。 こいつには、この女がデスノートを持っているかどうか分かるんだな。 『死神はデスノートを持った人間に“死神の目”を与える事が出来る。 寿命の半分を失う代わりに、相手の名前が見えるようになる』 ……! そんな取引が、本当にあるのか? 早くそれを言えよリューク! という事はこの女は本当に…… いや。 単純に相手の顔と名前が分からないと殺せないのがキラの弱点だという所から 連想しただけ、という事も十分にあり得る。 ……この女が、本当に相手の名前が見える可能性がどのくらいだろう? デスノートを持っていればこんな面倒くさい事をする必要など無い。 という所から、この女はデスノートを持っていない、と判断したのだが。 そもそもまともな人間なら意味も無く人を殺したりしないか……。 そう思うと可能性はゼロではない、というのが辛い所だ。 リュークを今すぐ問い詰めたいが、そういう訳にも行かない。 この女に、僕に死神が憑いているとわざわざ教える必要は無い。 突然吹き出した汗を拭い、じわじわと眼球を動かして さっきまでキャラフが何かを書いていた机の上を見る。 そこにデスノートがあったらどうしようかと思ったが どうやら普通の会計報告のようだ。 慌てるな……慌てるな、夜神月。 簡単に確かめる方法があるじゃないか。 「……名前が分かるなんて、嘘でしょう?」 「本当よ。あなたの名前は、朝日月でしょう?」 僕は思わず膝から崩れそうになる。 セーフだ……! 「朝日月」の名を知っているのもおかしいが、それは 最初の面接の時、ドアの外で立ち聞きをしていれば可能だ。 「なんてね。冗談よ。それはあなたの仮の名の仮の名ね?」 「……!」
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