トゥーランドット「泣くな、リュー」5
トゥーランドット「泣くな、リュー」5








キラは、僕だ。
だが、こんなに自信満々にはっきりと言われると、
自分以外にもキラがいたのか、などと一瞬思ってしまう。


「だから私に逆らえる者なんていないのよ」

「馬鹿馬鹿しい。キラはカリウム注射なんかしなくても、殺せたでしょう」

「私も本当は、手を触れなくても殺せるのよ?」

「嘘だ」

「嘘じゃないわ。Lは顔が分からなかったから殺せなかったけど
 Lの身代わりは殺せたでしょ?」


いや……だからそれは、リンド.L.テイラーを殺したのは僕だ。
名前だけでは殺せないと、白日の下に曝された、屈辱の記憶。


「じゃなければ、こんな風にあなたに正直に話す筈がないじゃない」


凄味のある声で言われて、不覚にも一瞬背筋が凍る。
落ち着け……彼女には遠隔殺人なんか、出来ない。


「私を、殺すと?」

「どうしようかしら」

「私を殺すとしたらそれはあなたの身の安全の為ですね?
 リューに見せる為だったアーチー、それに私、その二人以外は
 何故殺したんですか?」


キャラフは口に手を当てて、本当に楽しそうにクスクスと笑う。


「ミス・キャラフ。どういう理由があって、」

「あなた、冷静なのね。他の子達とは何かが決定的に違うわ。
 大概、私がキラだと伝えただけで狼狽えてひれ伏すのに」

「あなたがキラではない事を、知っているからです」

「キラよ。私は」


相変わらず余裕たっぷりの、笑み。
口ぶり。
……僕がキラでなかったら、本当に騙されそうだ。
思春期の少女ならひとたまりもないだろう。


「そうね……アマンダを殺させたのは、あなたに挨拶する為」

「……私に?」

「そう。あなたが新しい内偵だとは思ったけれど
 確認したかったのよ」

「……」

「それで、あなたが見に来やすい場所で派手な事件を起こしたら、
 案の定探偵みたいに!辺りを嗅ぎ回って、現場を撮影し始めて」


キャラフは言葉を途中で笑い始めて、しまいにはお腹を押さえて
体をくの字に折った。
あの現場での笑いは、僕に向けられた物だったのか……。
まんまと釣られたという事か。


「掲示板で私の第二の問いに、キラと答えたのはあなたね?」

「……ええ」


先方が「自分がトゥーランドットだ」と白状したんだ。
こちらも今更隠しても仕方が無い。
本当はこんな展開は全く予測していなかったが。


「何故、答えたの?」

「あなたが一連の殺人の動機を教えてくれたら教えます」

「あなたが教えてくれたら、私も答えるわ」

「それでは平行線ですよ」


女はまた、嬉しそうに目を細める。
しかし注意深く見れば、そこには確かに狂気が感じられた。


「では私が当てるわ。あなたの本名は、“月”に関係があるでしょ?」

「……」

「見ただけで名前を含めて何もかも分かるのよ。私はキラだから。
 いつでもあなたを殺せるわ」

「……!」


見ただけで名前が分かる……キラ?そんな物が居たら最強だな。
というか、デスノートを持っていると言うのか?!
いや、まさか。

……本当に?


「あなたは第一の問いの答え、“月”に無意識に反応した。
 そして私を挑発する為に自ら書き込む、という発想に至った」

「……」


落ち着け、落ち着け。
本当にデスノートを持っていたら、こんな手間の掛かる事などしない筈。

でも、万が一。

いや。これはこの女の手管だ。
引っかかるな。


「でも、答えが最初から“キラ”だったのは本当よ?
 あなたの為に変えた訳じゃ無いわ」

「そうですか。そんな事より」

「ここで質問です。
 “第三問。氷のように冷たいが、周囲を焼き焦がすものは?”」

「何を今更」

「答えて。物には順番という物があるのよ」


……第一問の答えが「月」だったのは、偶然だ。
第二問の答えは、「キラ」。
では、第三の答えは……?

オペラでは“トゥーランドット”だが。

氷のように冷たく、周囲を焼き焦がすもの……。

……冷徹とも言える手段でTV中継中にキラが人間だと証明し、
世界をパニックに陥れた男。



「……“L”」



キャラフはそれを聞いて、少し目を見開いた後、手を打った。


「正解!」






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