トゥーランドット「誰も寝てはならぬ」2
トゥーランドット「誰も寝てはならぬ」2








金髪のアマンダは寝息を立てていたが、やがて目覚めた時は
すっきりした顔をしていた。

やはり胸が大きいな……こちらも長い間禁欲していてしかも時差ぼけなんだ、
あまり見せつけないで欲しい。


「おはようございます」

「寝不足だったのかしら?」

「そうかも知れません……すみません」

「授業に戻る?」

「そうですね」


少女は髪をいじりながら少し考えていたが、やがて「あの、」と
呼びかけてきた。


「リューと、よくお話していましたね」

「ええ。あなたの不調の原因が分かればと」

「途中から寝てしまったんですけど……あの、あまりリューの事は
 信用しない方が良いですよ」

「どうして?あなたは仲が良いのよね?」

「そうなんですけど……」


何とも歯切れが悪い。


「大丈夫。私はお友だちを取ったりしないわ」

「そうじゃなくて」


わざととぼけて見せても、口を濁して語らない。
この少女は、リューの何を知っているのだろうか?


「あの、私、失礼します」


もう少し話を聞きたかったが、少女は僕の目を見ず、ぱたぱたと
去って行ってしまった。
その白い太股が、眩しかった。





校長に電話をすると、夕方なら学校から出て良いとの事なので
その旨Lに連絡する。

十七時きっちりに門に着くようにすると、丁度ワインカラーのキャデラックが
滑り込んで来た所だ。
相変わらず車の趣味は派手なのか。
警備員に鍵を開けて貰い、僕達は五秒も無駄にせず待ち合わせる事が出来た。


「乗って下さい」

「はい」


何となく朝日月モードのまま助手席に乗ると……微かに、果物のような
甘い香りがした。

オープンカーの時には気付かなかった、懐かしい……いや、最後に嗅いでから
さほど経っていない、

これは、Lの、体臭だ。

最初に体を重ねた時から感じて居た、当時は伊達男かと思っていたから
コロンか何かだと勝手に思っていたが。

一緒に暮らし始めて分かった。
彼は、基本的身だしなみを気にしない。
そして甘い物ばかり食べている。

だから、この甘い匂いは後から付けた物ではなく、彼自身の物だ……。
血糖値は大丈夫なのだろうか?



Lは黙ったまま、乱暴な運転で州立公園の方へ向かう。
やはり僕が勝手に“abyss”に書き込んだ事を怒っているのだろう。


     赤く、炎の如く熱いが、火ではないものは?

     Re:「キラ」


内容はともかく、これでトゥーランドットが書き込み主を探すのは確実だろう。
彼女(恐らく)がこの事件と関係あるのかないのか。
そしてどうやって僕に辿り着くのか、お手並みを拝見出来るわけだ。
悪くない手だと思うが。

Lは二十分程ハイウェイを走った後脇道を入り、池を望む木陰でやっと車を止めた。


「ここなら誰も来ません」

「そうですね」


Lは僕を睨んだまま少し眉を顰める。
朝日月モードが癪に障るのだろう。


「もう月曜日ではありませんよ」

「あら。そうだったかしら」

「……私に何か言う事はありませんか。ライトくん」


Lは僕を睨んでいる。
狭い車内で、果物の匂いが、濃くなる。

Lの言葉は僕を咎めているが、これは……欲情している匂いだ……。

黙ったまま月モードで微笑む僕に、Lは怯まなかったが
その襟首を掴んで覆い被さり、唇をつけるとその目が大きく開かれた。

何だよ。
目、閉じないのか。

と思いながらも、僕から目を閉じたら負けを認めるような気がして、僕も見開く。

歯を当て、舌を忙しく動かしながら、少しづつ体重をLの上に移動して行く。
そして手を伸ばし、運転席の座席レバーを探し出して引くと、
Lの体はゆるやかにリクライニングした。


「つ……ラ、ライト」

「何」

「私、状況を、把握しかねています」

「状況も何も」


もう一度顔を押さえつけ、今度は目を閉じて唇をつけると、
妙に安らいだ。
この、甘い匂い。
くらくらする。


「……発情、してるんですか」


Lに低い声で言われて、思わず声を出して笑ってしまった。


「そうだね。この状況に名前をつけるとするならば、『発情』かもね」


そう言ってジーンズの前を指で撫でると、Lは耳を赤く染めた。
吐息が、また甘い。


……自分でも、不思議だ。
Lに毎日のように抱かれて、自分も女みたいに感じるようになって。
でもそれは、生きていく方便だと割り切っていたつもりだった。

実際、他の男と寝るなんて、想像するだけでゾッとする。
豊満な女子高生を見て、目が楽しむ。

なのに、この貧相な男を見ただけで、その体臭を嗅いだだけで
こんな風になってしまうなんて。

たった一週間禁欲しただけで、頭がおかしくなってしまうなんて。






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