トゥーランドット「誰も寝てはならぬ」1 Lは、僕達が顔を合わせる事は当分無いだろうと言っていたが、 早速呼び出された。 用件は勿論、書き込みに対する小言だろうな。 Lから“abyss”のログが送られて来てすぐに、僕は保健室でPCを開いた。 午前中は保健室に来る生徒が少なくて助かる。 そしてログを見て、トゥーランドットと今回の連続死亡事件は やはり関係がある、と思った。 しかし、トゥーランドットの謎かけに答えた人間の数と死んだ数は 一致しない。 謎かけに不正解でも死なない人間も居る、という事だ……。 身元が分かった人間と分からなかった人間の差か? トゥーランドットがもしこの掲示板の管理者であれば、パスワードやIPアドレスから ある程度誰が書き込んだか特定出来るのかも知れないが。 例えば僕が書き込んだら、どうなるんだろう……。 誰も存在すら知らないこのPCを特定出来るとも思わないし、 万が一僕だとバレても相手は恐らく女だ、負けるはずはない。 赤く、炎の如く熱いが、火ではないものは? 「復讐心」が当たらずとも遠からずで、「心臓」と関係がある……。 心臓……心臓麻痺……。 そんな物はいくらでもあるだろう。 答えが一つしかない謎かけではない。 しかし。 Pe:「キラ」 同時にこれを見ているであろうLを少し揶揄いたくて、敢えて書き込んだ。 その時、外で足音がして保健室のドアがノックされた。 「はい」 慌ててPCを閉じ、マスクをつける。 入って来たのは、顔色の悪い金髪の大柄な女の子と、それを支える 小柄な東洋人の女の子だった。 「どうしたの?」 「授業中に気分が悪くなったみたいで」 「吐き気は?」 「……さっきは、少し。今は、さほど」 「とにかく横になって」 女の子をベッドに寝かせ、熱をはかり脈を診る。 両方問題はないようだった。 軽い食あたりか何かか。 「あなたは?」 「同じクラスのリューです。彼女はアマンダ・クローガー」 「リュー……生徒会長ね」 「はい」 この子がもう一人の内偵か……。 優秀なのに、何故か大した情報を寄越さないらしい。 生徒会長ともなれば、“abyss”の存在を知らない筈はないと思うが……。 いくら「L」と言えど、いきなり現れた外部の探偵よりも、校内の付き合いの方が大切か。 それでも何か聞き出せないかと、声を潜める。 「彼女、時々ああなるの?」 「いいえ……初めてです」 「精神的な物かしら……何か思い当たる事、ある?」 「いえ、特に。うちの学年は皆仲も良いですし」 衝立の向こうのベッドから、寝息が聞こえてきたので もう少し踏み込んでみる事にする。 「恋愛トラブルは?」 「あり得ませんよ!」 そこで何故かリューは、笑った。 「彼女に限ってそんな事は、あり得ません」 「そう。仲が良いのね」 「ええ……まあ」 「そう言えば、ノースビーチのシドニー・ティールっていう男の子が 格好いいっていう噂を聞いたけれど」 リューの、微笑を絶やさなかった口元がすっと下がる。 「……誰に聞いたんですか?」 「さあ……昨日すれ違いざまにちらっと聞いただけだから」 「全然格好良くないですよ。ほら、非常階段から落ちたフリントと付き合ってたから 悲劇のヒーロー気取りで調子に乗ってるんです」 「そうなの。フリント、記憶に無いんだけれど、どんな子だったかしら?」 「見たら思い出しますよ。鼻と唇に沢山ピアスをつけてたから。 一年生の時はスキンヘッドにしたりしてたんです」 それは、この学校に居たら異端児だろうな。 “トゥーランドット”の、お気に召さなかったと、周囲は判断した訳だ。 実際はどうか分からないが。 「ああ……あの、目立つ子」 見た事もないが調子を合わせると、リューはそうそう、というように 何度も頷いた。 「自殺なんかするように見えなかったけど、どうして死んだのかしら」 「さあ……危ない事をして調子にのる所があったから、 何か失敗したんじゃないですか?」 ……? 確か、Lの話ではこの子はフリントの転落現場を見た筈。 それで少なくともフリントの死に関してはアリバイがあるので、犯人では あり得ないとしてスパイに選ばれた、との事だったが。 まるで、人づてに話を聞いたような物言いをするな……。 「フリントって、もしかして、あのロックバンドが好きだったのかしら。 ほら、中国風の変わった名前の……」 「ああ。“A Mandarin”ですね。違いますよ、フリントはパンクです。 Mandarin のファンは、ゴッツィです。メアリー・ゴッツィ」 「そうなの。有名なの?」 「熱狂的で、ちょっと着いて行けないです」 そう言ってリューは年齢に相応しからぬ苦笑を浮かべる。 しかし、ゴッツィの名は死亡者リストにはなかった……。 「授業に戻って良いでしょうか?」 「ええ。彼女もこの時間中に調子が戻れば戻らせるわ。 戻らなければ寮に送るので、様子を見てあげてね」 「はい」
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