トゥーランドット「お聞き下さい、王子様」6
トゥーランドット「お聞き下さい、王子様」6








「さて。改めて、よろしく頼む」


アルタウムが僕に手を差し出した。
さっき言われたので握手をしながら相手の手を観察したが、確かに
僕の手は白人の中年男に比べたら女性的だ。


「あなたの役回りは、養護教諭だ。少し若すぎるようではあるが、
 まあ東洋人は元々若く見えるから大丈夫だろう」

「私に似ている『彼女』とは?」

「前の前の養護教諭だ。日本人だが、その彼女が復帰した、という体裁が望ましい」

「なるほど。あと、私は『事件』について、全く知らないのですが」

「ああ……そうか。Lは何も知らせずにあなたを呼んだんだな」


そう言って、彼はこの学校で起こっている連続死亡事件について
話し出した。





「そうですね……三件目位までは偶然、と言えなくもないですが」

「Lも同じ事を言っていた。しかし現在はもう七人も死んでいる」


睡眠中の心停止。
非常階段からの転落死。
敷地内での交通事故死。
敷地内のプールでの溺死。
睡眠薬の過剰摂取による事故死か自殺(まだ断定出来ていない)
薬物実験中の中毒死。
誤飲による窒息死。


「正直、睡眠薬自殺の時に、もう終わったと安心したんだがね」

「その女子生徒が犯人だと?」

「そういう証拠も何も無いが、連続殺人の後犯人が自殺、というのは
 映画でよくある展開じゃないか」

「……」


どうやらこの男はバカのようだ。
あまり当てにしない方が良い。


「きみにして欲しい事は、死んだ生徒・教師の共通点を探る事だ。
 実は既に生徒会長のリューにも頼んでいるが、あの子は使えなくてね。
 リューには君が同じ事を調べている、という事は悟られないようにしてくれたまえ」


内部の生徒にも難しいとなると……教師ならともかく、一介の養護教諭
という身分の僕に、調べられる事があるだろうか。


「女子寮の反対側に、職員寮もある。ここは町から遠いからね。
 独身の教師はそこに住んでいる者も多いから、君もそこに入ると良い。
 ミス・ピング。彼女を職員寮へ」

「はい」


いつの間にか影のようにドアの脇に立っていたオールド・ミス……もとい
昔スーツのミス・ピングが陰気に頷き、廊下に歩き出した。
僕は慌ててキャリーバックを掴み、後に続いた。




「あの、ミス・ピング」

「……」

「あなたは校長先生の秘書ですか?」

「……」


用務員……といった風情でもない。
女子校だからスタッフは女性ばかりというのは有り得るが、スーツはないだろう。


「事務をしていらっしゃる?」

「……」

「でなければ」

「わたくしの事は!」


ミス・ピングは突然立ち止まり、声を張った。


「どうか放っておいて下さい。
 あなたは校長に言われた仕事をしていればよろしい」

「ああ……失礼」


彼女はそれに頷きもせず、無言でまたすたすたと歩き始める。
どうやら彼女から何か情報を引き出す事は無理そうだ。
後は何も言わず着いていった。



今まで居た本館を裏に出ると、この建物はどうやら「E」の字になっているらしい。
長い横画の片方の向こう側に、比較的現代的な長い建物が二棟ほど見えていて、
それが女子寮のようだ。

もう一つの横画の先に、こちらは古い、鎧張りの洋館風の建物が。
これが職員寮らしい。

階段を数段上って玄関を入るミス・ピングに続くと、吹き抜けの玄関ホールには
ロビーのように椅子やテーブルが設置され、サロンになっているようだ。

その向こう側の階段を上り、二階の廊下の一番奥が、僕に与えられた部屋だった。


「鍵はこれで。一応スペアキーがありますが、無くさないで下さい」

「はい」

「バスもトイレも個室にありますが、汚さないで下さい。
 破損したら実費で弁償して貰います」

「はい」

「消耗品も実費です」

「はい」

「洗濯は一階に洗濯室があります。
 洗剤は共同ですが無駄使いしないで下さい。
 キッチンと食堂も一階、自炊して貰いますが、誰かと共同で……」


ミス・ピングは、これほど喋る事が出来たのか、と驚くほど色々な注意を
一方的にしていた。


「では」

「あの、」

「失礼」


質問も許さず慌ただしくミス・ピングが去って行ったので、仕方なく部屋に入る。
さて、と見回したが殺風景な室内だった。

埃がたまっているな……まず掃除をしよう。
ベッドシーツとカバーも洗濯したいが、これは明日か。

トイレを見てみたが、ペーパーがない。
そして僕は、ホテルに泊まる事しか想定していなかったので、バスタオルも
持ってきていない。

というか、もしかして今日の晩飯すらないんじゃないか……。
早急に町に行って買い物をしなければならないが……金が。

僕は慌てて携帯電話を取り出した。






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