トゥーランドット「お聞き下さい、王子様」5
トゥーランドット「お聞き下さい、王子様」5








「お二方とも遠路はるばる、よくお越しいただいた。
 私が当学園長のアルタウムだ」

「はじめまして。ナオミ・ミソラです」

「朝日月です」


学園長と言うには若い……四十に手が届くか届かないか。
いや、白人だから実際はもう少し若いか。
やけに姿勢の良い男が、大股で入って来た。


「二人とも、Lから話は聞いているかな?」


僕達は思わず顔を見合わせた。
このナオミも、Lに呼ばれて来たのか……。

Lは一匹狼で、人脈というものがないイメージがあった。
あるとしても、「L」の名を出して付き合うという事は稀なのではないかと。


「いいえ」


ナオミが、言葉少なに応えた後、少し迷って続ける。


「私は元FBI捜査官で、Lの下で働いた事があります。
 現在は辞職しているので、短期の仕事のお話かと思いました」


何となく僕も自己紹介するような空気になる。


「私は日本の学生です。ある事件でLと知り合い、今回呼ばれました。
 少しだけ警察のお手伝いをした事がありますが、ご覧の通り
 英語もあまり得意ではありません」

「いや、ネイティヴかと思ったよ」


男は顎を撫でながら僕達の顔を交互に見つめた後、


「二人とも、医師免許も看護師免許も?」

「ありません」

「ええ、持っていません」

「簡単な応急手当なら出来る?」

「まあ……学校の保健室程度なら」

「同じくです」


男は満足したように頷いた。


「分かった」


そういってポケットから、携帯電話を取り出す。
通話状態になっているようだった。


「L。確かにあなたの言う通り、ナオミの方が年齢的にも経験的にも
 内偵に向いている。
 しかし外見で言うなら、断然月だ」


どうやら通話の相手は、外で待機しているLらしい。
そして、僕とナオミの内どちらか一人を何かの内偵に使うという話か。


「ナオミに頼むとなると、新しい養護教諭を雇う体裁を取る事になる。
 それは学園としても望ましくない」

「月は驚くほど背格好が彼女に似ている。
 顔は少し違うが、東洋人同士だから生徒達には分からないだろう」


それからしばらく相手(Lだ)の話を聞いていたアルタウム氏は、
携帯の音声をスピーカにしてこちらに向けた。


『月さん。ナオミ。お疲れ様でした。
 今回の内偵は月さんにお願いします。
 ナオミ、わざわざ時間を取って貰ったのに申し訳ない』

「大丈夫です、L。またお役に立てる日を楽しみに待っています」

『ありがとうございます。
 月さんはそのまま学校内に滞在して下さい。
 役割や仕事の話はアルタウム氏に聞いて下さい』


え……。
このまま?

サンフランシスコに着いて、Lと過ごしたのは空港からの移動時間だけだ。
「今回はそういう事はしない」というのは、本気だった訳か……。

いや、別に良いんだけど。


「月さん、頑張って。
 あなたなら必ず事件を解決に導く事が出来ます」


Lとの通話が切れた後、ナオミは髪の生え際を少し弄ったと思うと
ばさりとウィッグを取った。
わざわざ髪型を似せていたのか……。
頭を振ると、セミロングの黒髪がさらりと揺れる。


「そうでしょうか」

「私が二年前、Lの下で働いた時。
 PC越しの声に従っていただけですがこの人は信頼できる、
 どんな事件でも必ず解決してくれる、と確信しました」

「……」

「Lに従っていれば、間違いありません。
 それに……あなたには、Lに似たもの……近い物を感じました」


Lと僕に、似た部分があると言うのか……。
しかしこの女の人間観察能力には侮るべからざる物がある。


「ありがとうございます。その……」

「勿論あなたの事は誰にも言いません」


僕が男だという事は他言しない、と暗に含ませ、ナオミは
荷物を持ってドアに向かった。






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