トゥーランドット「この宮殿の中で」 3
翌日夕方、早速リューからメールが届いた。
“転落事故のフリントと先日業者の車に轢かれたラビニオは、
同じクリケットのサークルに入っていました。
実験中毒死のモリスと心不全のアーチーは、サンノゼの
同じ小学校に通っていました。
他の二人については、まだ共通点は発見出来ません”
『分かりました。お疲れ様です。
昨日言い忘れましたが、くれぐれも犯人に嗅ぎ回っている事がバレないように』
まあ、素人の女子高生ならこんな物か……。
イギリスに居ても分かった事ばかりだが。
しかしそれから数日間、リューの報告は実の無い物ばかりだった。
ネットでの動きの掴み方は分からない、親しい者と言っても、
三百人しか居ないのだからほぼ皆顔見知りと言って良い、と。
人選を間違ったか。
……同じ女子高生でも、高校生時代の「朝日月」なら
遙かに上手くやっただろうに。
などと埒もない事を考え、新たな手を打たねば、と思っていた時
事件は起きた。
『FBIが動き始めた……？』
“ああ。今までは州警察に掛け合って何とか大事にしないようにして来たが
さすがに目立ったらしい”
今度は養護教諭が、信じられないがパンを喉に詰まらせて死んだのだ。
“しかし今回は、完全に事故だと言える。
食堂で皆同じパンを食べているし、件のパンを選んだのも彼女自身だ”
『そうですか……しかし』
それを言うのなら、今までの全ての「死」が事故と言ってしまえる。
……デスノート、か？
最初から、脳裏をかすめていた疑いが、また浮上する。
夜神のデスノートは特別製の金庫に保管してある、誰にも手出しは出来ない。
しかし、人間界にもう一冊デスノートがあるとすれば。
この事件はキラの裁きとはあまりにも指向性が違う……。
校長が、キラ事件との相似に気付いて私に依頼してきた、という訳ではないだろうが。
この、完璧に事故に見せかけた連続殺人。
キラではない人物が、デスノートを使っている、とすればしっくり来る。
……とすれば、外部犯の可能性も出て来たが……。
心臓発作が一人しか居ない、という事は、やはり被害者の様子を傍で窺い
不可能では無い死に様を決定している、という線が強い。
『被害者は、確か臨時教諭でしたね？』
“ああ”
『本来の養護教諭は、どういった理由で休んでいるのですか？』
“それは”
校長のタイピングが止まったので、問い詰めてみると。
“私の、婚約者なんだ……”
『……はぁ』
“彼女は日本人で、しかもモデルの仕事をしていたので家族に反対された。
取り敢えず養護教諭の資格は持っているというので
この五月からうちで働かせて職歴を積んで、と思ったのだが”
『連続死が起きて、怖くなって辞めてしまったのですか？』
“いや。私が辞めさせた。その……、心配だったんだ”
……。
全く。
他人の子女は平気で殺人現場に残すくせに、自分の恋人は
置いておけない、と言う事か。
呆れた男だ。
『また新しい養護教諭を雇わなければなりませんね』
“そうなんだ……”
『前任者が復帰できないのなら代理を立てます』
今、新しい養護教諭を雇うのは得策ではない。
全校生徒が事件を「L」に依頼していると知っている現状。
今「新しい職員」が入ったら、まるで「L」か「Lの配下」だと言わんばかりではないか。
『一ヶ月しか居なかったのなら、似た女で生徒の目は誤魔化せますよね？
彼女の容姿はどんなでしたか？』
“助かる。とは言え、彼女はモデルをしていた位なので珍しい長身の東洋人だ”
『なるほど。髪や顔は？』
“髪はブラウンのショートカット、私が言うのも何だが、美人には違いない”
……否応なしに、脳裏に浮かぶ顔。
『写真を送って下さい』
“分かった。少し待ってくれ”
向こうが手間取っている間に、こちらも用意出来そうな何人かの写真を
ピックアップする。
やがて来たのは……驚くほど夜神と髪型や顔の形が似た女性だった。
顔は、口がやや大きく奔放な印象だが、それ以外は
遠目に見れば分かるまい、という程度の差違だ。
『こちらからも送りますので、見て頂けますか』
送られてきた写真の髪型を三人の写真に合成し、返信すると
“二枚目と三枚目が似ている”
と、返信が返ってきた。
“というか一枚目は明らかに白人だろう”
『なのですが、ピッキングやスパイ行動は一番得意そうなので
候補に入れてみました』
適性だけで言えばウエディが第一候補だったが、やはり無理があるか。
『三日以内に、あなたの婚約者の身代わり候補を向かわせます。
直接見て、あなたが選んで下さい』
それから、私は携帯を取り出した。
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