トゥーランドット「この宮殿の中で」 1
トゥーランドット「この宮殿の中で」 1








私は、安楽椅子探偵を自認している。

今の世の中コンピュータがあればいくらでも世界中の情報が手に入り、
意見交換も出来る。
足で捜査をする事も時には必要だろうが、それは人に任せれば良い話だ。

という事で、イギリスのとある辺境で世捨て人のように夜神月と……
朝日月との蜜月を楽しみながら、時折捜査の手伝いなどさせて
穏やかに暮らしていたのだが。




“L。私が最初に依頼したのは何日だ?”

『五月の三十一日ですね』

“その時点での死者は三名。今はその倍だ”

『恐るべきスピードです』

“退学や休学をさせたがる保護者に、あの世界的名探偵のLに依頼したのだから
 近日中に解決すると!言い続けて、既に一ヶ月だ!”


チャットでやりとりする依頼者のタイピングスピードが、彼の苛立ちを
物語っていた。


『しかし、まだ情報が出揃っていません』

“それを、あなたが揃えるんだろう! skype に切り替えて良いか”

『すみません。それは出来ません』


こちらの顔が見られなくとも、この調子で直接がなられるのはうるさかろう。


“とにかく!是非、直接こちらに来て捜査をして欲しい”

『少し待って下さい』


画面が切り替わり、PCディスプレイに「W」の飾り文字が表示された。


『と、仰っておられますが、どうしますか?L』


私に代わって依頼者と応対してくれていたワタリが、直接話し掛けて来る。


「ワタリはどう思いますか?」

『そうですね……キラ事件で、Lが動けない訳でも動かない訳でもない、という事が
 明らかになってしまいましたから……今回の場合は足を運んだ方が無難でしょう』

「あなたが代わりに、と言うのは?」

『申し訳ない。今回は、無理です。退院までには二週間ほど掛かる見込みです』





今回の依頼人は、サンフランシスコにある古い全寮制女子校の校長だ。
祖父はゴールドラッシュで手にした金を元手に金融業で財を成した財界の大物、
その財を継いだ父に事業の一つである私立高校を任された依頼人も
校長と言ってもまだ青年と言って通るような年らしい。

その彼の王国と言って良い学内で。
不可解な死が三件続いたと言って私に依頼が来たのだ。

とは言え、睡眠中の心停止、転落死、敷地内での交通事故死、と、
三件とも事故死、自然死である可能性が高く思えた。
一般的には健康な若い女性が一ヶ月の間に三人死んだら気になるのも分かるが
確率的に無い偶然ではない。

それでしばらく放置したら、この有様だ。
ここまで来たら、完全に「事件」と言って良いだろう。

しかし運悪く、ワタリは今腰を痛めて入院している。
静養すれば治る物だが、今無理をさせては今後に響くだろう。


「どうした?」


その時、開いた扉をノックして、夜神が顔を見せた。
私の呻き声を耳にしたらしい。


「ああ……ライトくん。申し訳ありません。私、アメリカに飛ぶ事になりそうです」

「仕事?」

「はい」

「なら当然だろ?何故申し訳ないとか言うんだ?」

「あなたに寂しい思いをさせてしまう」

「いやいやいや!大丈夫だよ。確かにここは人気がなくて寂しいけれどTVもあるし
 週に一度は宅配もあるし」

「そういう意味では……。いえ、宅配の人と浮気しないように」

「……何言ってるんだ……」


今日は日曜日。
惜しい……明日になれば、「朝日月」が見られたと言うのに。


「それでは……行って来ます」

「今?」

「はい。用意する物もありませんし」

「パスポートとか着替えとかは?」

「PCも全部空港近くの銀行の貸金庫に預けてあります」


夜神は何とも言えない顔をした後……無表情で顔の横で小さく手を振った。
その可愛い仕草は、せめてもの餞か。
余計に行きたくなくなるではないか。






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