21+22 3 その時、タイミング悪くメールが届いた。 「失礼」 ニアが律儀に俺に断ってメール内容を表示すると、先ほどの件の続きだった。 ヘリに乗っていたメンバーだけでなく、その上司や同僚まで徹底的に調べたが、 誰も国外に出た事がないと書いてある。 対して被害者は初めてこの国に来た観光客で、しかも英語もフランス語も アラビア語も解さない。 そのせいでコースのチョイスを誤り、本当に遭難したらしい。 捜査員はおろか、この国の誰とも知遇があったとは考えられないとあった。 「……困りました」 「本当に、困ってるのか?」 「八方塞です。不可能事件です」 と、言いつつ、どこかこちらを観察しているような雰囲気もある。 こいつ……俺を試していやがるな。 本当にメロか、まだ疑っているのだろう。 その手には乗るか。 「なら、どうするんだ?」 「現地に行って捜査するしかないですね」 「おまえが?」 「はい」 ……シドウによれば、ニアはかなり動かないタイプだったと聞いている。 しかもこの状況で行く、とは。 「俺が止めると、思うのか?」 「いいえ。あなたがメロであってもなくても止めないと思います」 「が。」と、少し声を強めて続ける。 「あなたが私ならどうするか、参考までに聞かせて貰えますか?」 正直に答えるかはぐらかすか迷う……所だが、 コイツにバカと思われるのも癪なので、思ったことを口にした。 「まず、この事件が現地で本当に起きているか調べる」 「なるほど」 ニアは頷くと、リモコンを操って沢山あるモニタの一つに向ける。 「かの国の、最新ニュースの録画が流れます」 画面を見ていると、黒髪に褐色の肌の美女がアラビア語で原稿を読み始める。 完全には分からないが、砂漠に放置された車の映像や ヘリの乗務員のインタビューがあり、件の事件と思われた。 但し扱いは簡単で、あり得ない死に方だった事は報道されていないらしい。 「本当に起こってますね。被害者の顔写真も映ってますから マスコミにまで手を回して事件を捏造したという事もなさそうです」 「なら、可能性は一つしかないな」 「ですよね」 ニアが、こちらを見てニヤリと笑う。 俺も思わず笑いかけけて、何でコイツとこんな気の合う会話をしてるんだと 慌てて顎を引いた。 「ところでメロ、どうして私にデスノートを持たせたんですか?」 「おまえと話したかったから」 「そうですか……。何を話しましょう?」 「Lやキラ事件の思い出話でも」 ニアは、足元にあったタロットカードを何気なく一枚手に取った。 そこには、逆さ吊りにされた男がいる。 「……私がキラを捕らえる事が出来たのは、あなたが高田を 誘拐してくれたお陰です」 タカダ……また知らない名前が出てきた。 頭にインプットする。 「そして、首尾よく高田に殺されてくれたから、」 はぁ?! 俺を殺したのは、キラでもニアでもなくタカダ? 相当ややこしい話のようだ。 「……なら、お前が今Lとしての地位を確立出来たのは、 俺のお陰という事になるな」 「はい」 ニアは答えながらデスノートをぺらぺらと繰り、その表面を指で撫でた。 「このデスノートの現在の持ち主は、私ですよね?」 「……」 思わず声が出そうになって押さえる。 こいつ、ノートを返さないつもりか? まあいい。 こんなひ弱な奴、いざとなったら力尽くでも取れる。 「私、使ってもいいんでしょうか」 「今回の犯人の名前でも書くか?」 「黒幕を押さえられないと意味がありません」 そこで、眉を寄せて俺の顔を穴が開くほど見た。 「あなた……本当に死神ですか?」 「見りゃ分かるだろ」 「そうなんですが、どうもデスノートの特性を知らな過ぎるというか」 「余計なお世話だ。新米なものでな」 「それに、人間だった頃の記憶は、ありませんよね?」 「……」 くそっ!バレたか。 まあ、それを言わずに事件の全貌を知るのは難しそうだったから 仕方がない。 「……何故、分かった?」 「メロの記憶があれば、デスノートの使い方にも詳しい筈ですし……。 まず、私には会いに来ないでしょう。 私に会いたい理由があるとすれば、あなたの生前の事を聞くためとしか」 「なら俺が現れた時から、気づいてたって事か」 「確信したのはノートを私に持たせた時です」 ノート?に何かあるのか? シドウの奴、何か言っていなかった事があるんだろうか。 「さっき言った様に、私達はお互いに会いたくなるような間柄じゃないんですよ」 「敵……という事か?」 「少なくともあなたはそう思っていたと思います。 私に対抗意識を燃やし、私より先にキラを捕らえようと躍起になっていました」 「おまえは違うのか」 「私は……特には」 チッと、思わず舌打ちをしてしまう。 何となく、生前の感情が蘇って来たような気がした。 こいつが、自分も俺に対して敵愾心を抱いていたと言うような奴なら きっと俺は嫌いになってはいない。 こういう、平気でおまえなど眼中にないと言ってしまえる奴だから 今でも俺はお前が嫌いなんだ! 「……『メロ』に対して何も思うところが無かったというのか」 「私は、あなたと協力してキラ事件に立ち向かっていれば あなたを死なせずに済んだかも知れない、とずっと思っていました」 「……」 「逆に共倒れになっていた可能性も十分ありますが」 何が言いたいんだ? 結局協力してもしなくても、死ぬ確率は同じだったという事か? 「Lが死んで、あなたまで死んで……、キラも死んで」 「……」 「この世は、退屈になりました」 「……」 「解読不可能な事件など、起こらない。 キラ事件程、私を本気にさせる事件は起こらない。 対等に話せる相手が居ない」 ぼそぼそと、独り言のようにニアが続ける。 「実際、限界があるんです。私の行動力では。 『L』のようには、捜査出来ない。 『L』なら引き受けられる事件でも、受けられない」 「……ニア。愚痴なら一人の時に言え」 「ああ、すみません。 だから、嬉しかったと言いたかったんです」 「何がだ」 「あなたがこれからずっと、私と一緒にいてくれる事が」 「……」 ……ええっ?!
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