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目を開けると、そこは真っ暗な世界だった。


……どこだ?


手……手、らしき物を上げると、ぼんやりと白い五本の指が目に入る。
という事は真の闇ではないのか。
どこかに光源がある筈だ。

体を起こすと、遥か向こうが少し明るい。
だが、そこも薄ぼんやりと曇り空のようで、はっきりとした光源が分からない。

取り合えず、そちらに向かって歩いてみる事にした。


足……はあるな。
何不自由なく歩けている。

少しづつ目が慣れてくると、手の爪は、尖って黒光りしていた。
マニキュア……か?

という事は、俺は女か?

いや、男だ。それは間違いない……が。


……俺は、誰だ?




しばらく歩いても、一向に薄ぼんやりした場所が近づいて来ない。

面倒だな……と思った瞬間、背中が、肩甲骨が酷く開いた感触があった。


「な、んだ?」


肩甲骨の内側から、人間の体には収まり得ない質量の何かが
物凄い勢いでずるずると出て行く感覚があり、重心からしてそれはどうやら
二股に分かれてVの字になっている。
俺の背丈ほど出た所で止まり、更にそれぞれがもう一度開いて、Mになった。

少し重いが、その質量に比べれば何ほどでもない。
この、軽く、少し焦げた匂いがする物は……


……翼?


試しに少し走りながら「飛ぶ」と念じてみると、俺の体は
ハングライダーに乗っているかのように、ふわりと持ち上がった。




翼のお陰で楽をして明るい場所に来られた。
どうも……ここはえらく荒廃した場所で、だが生命感がない訳ではない。
人間でも動物でもないが、異形の何かがいくつかいる。

俺を見て、驚いたように凝視する者もあるし、ちらりと一瞥しただけで
無関心の者もいた。


どうもここは……俺の知る常識の世界とは少し違うようだ。

それは分かるのだが、その「俺の知る世界」がどんなものであったか、
思い出せない。
それがもどかしい。

苛立って、誰か(何か?)が積んでいる髑髏の山を蹴り崩すと、
そいつがメソメソと泣き出して余計に腹が立った。


「おい」

「……」

「おい!っつってんだろ!」

「なに……なんですか……」

「ここはどこだ?」

「へ?し……死神界、です、が……です、よね?」


死神界?
なる程……俺は、何かの拍子に死神の世界に迷い込んだのか。


「あなた、だって、死神、じゃないですか」

「はぁ?!俺が?」


怒鳴った所で、ばさばさと忙しない羽音が聞こえてきた。


「メロちゃん!メロちゃん!」

「は?誰だテメエは。気安く呼ぶな」


言ってから気づく。
そうだ……俺の名は、メロ……少なくとも、メロと呼ばれていた。


「シ、シドウです。忘れたの?」

「知らねーな」

「あ、そっかぁ。初めてのパターンだから、」

「何の話だ」

「い、いや、人間が死神になったなんて例外中の例外だから、
 知らなかったけど、人間だった頃の事って忘れちゃうんだなぁって」

「俺が……人間?」

「ああ、でも、多分知らなくていいんだと思う」

「ふざけんな!」

「ひっ!」

「吐け。お前が知ってる事全部吐け!」


首(らしき場所を)掴んで揺すると、そのシドウという死神は
悲鳴を上げた。


「分かりました!分かりましたから!」


その死神の、噛んだり堂々巡りだったりする話をまとめると、
俺は人間だった頃マフィアだったらしい。
で、死神の道具である人の死を司るノートを奪ってシドウをこき使い、その後死んだ。
羽根が所々焦げているのはその死に様の影響らしい。


「でね、でね、死神大王が、最近死神が減ったから、死んだ人間の内誰かを
 死神にするって言ったから、オレ、迷わずメロちゃんを推薦したの」

「へえ。で、俺は何をすればいいんだ?」

「そうだ!これ、渡そうとして探してたんだ!」


シドウが、触覚のような指で襤褸の中から一冊の真っ白なノートを取り出した。


「オレ、新品のノートって久しぶりに見た」

「これがその、デスノートか」

「そう。メロちゃんの。書いても書いても中身は減らないけど、
 表紙を無くすとマズいらしいから気をつけてね」

「ふうん。で、どうやって殺す人間を探せばいいんだ?」

「それは、人間界を見られる『穴』があって、」


シドウが答えた時、上でまたばさばさと羽音がした。


「おーい!白いのが、デスノート使った人間に呼びかけてるらしいぞ」


別の死神が、どこかへ向かいながらこちらに声を掛ける。


「丁度いいです。見に行きましょう」

「何をだ?」

「ニアっていう、メロちゃんの……」

「俺の?」

「う〜ん……敵?幼馴染?そういう人」



シドウに着いて行くと、壊れた巨大な地球儀のような物の前に
いくつか死神が集まっていた。


「どけ!見せろ」


そこには、日本人だろうか、美少女フィギュアで埋まった気持ちの悪い部屋で
何かしている東洋人が映っている。


「こいつがニア?」

「違う違う、あっちの方」


指差したのは、別の場所にいるらしい、西洋人。
こちらはこちらで、トランプだかタロットだかでいくつも巨大なタワーを作っていて
別の意味で気味が悪い。


見ていると、ニアはどうもTVで電波ジャックをして東洋人に呼びかけているらしい。
やがてニアが一言言うと、東洋人の動きが止まった。

以後再び動きはなく、死神は三々五々散っていった。



それから三日ほど経ち、東洋人が自分で死んだと聞いた。
顔も正体も分からない相手を、一言で殺した、か。

ニア。
俺も、コイツに殺されたのか……?

俄かに興味が出てきて、シドウを捕まえてニアとの関わりや、
その、前回デスノートが人間界にあった時の事件の事を聞いたが
断片ばかりで今一つ要領を得なかった。


「で?その、Lってのの後継者候補だったんだな?俺とニアは」

「そう……そう、聞いてる。リュークに」


リュークというのが、人間界にデスノートを落とした死神で
ノートを拾った人間に憑いていたらしい。


「で、ライトってのは?」

「うーんと、あ、死んだ。リュークがノートに名前を書いたって言ってた」

「そこまでずっと見ておいていきなりか?」

「いや、ニアに、キラだってバレて、追い詰められてどうしようもなくなって」

「自殺?」

「違う。リュークがノートに名前を」

「だから!自分でノートに名前を書いてくれるように頼んだのかって話だよ!」

「……分からない……」


本当に、使えない。
確かに生きていた頃の俺は、頭の回転の悪くない奴らに
囲まれていたんだろう。
こんなに要領の悪い奴に、こんなに付き合ったのは初めてという気がする。


「もう分かった。俺は直接このニアって奴に聞いてくる」

「だめだよぅ。ノート触らせないと、相手にはこっちが見えない」

「触らせればいいんだろ?」

「そうだけど」

「じゃ、行って来る」


翼を広げると、シドウが足を掴んできた。


「ちょ。ちょ。メロちゃん!一つだけ!」

「何だ」

「俺もその事件で初めて知ったんだけど、死神が好きになった人間を
 助ける為に別の人間を殺すと、死んじゃうらしいんだ」

「へえ」

「だから、気をつけて。メロちゃんに限ってないと思うけど」

「余計なお世話だ」


そして俺は、人間界に降り立った。






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