Trick so Treat 2 「いやいや、僕は魚じゃないから!」 「分かってます。ちょっと言ってみただけです。 しかし一体どう言う……」 「そう。原因の追及も含めて、やっと本題の相談なんだけど」 「はい」 「誰にもこの状態を知られないように、元に戻る方法を探りたい。 協力してくれ」 「え……誰にも知られないように、は無理じゃないですか?」 「何故」 「キラ捜査には参加するんですよね?」 「それは……」 無理だ。 それに、この状態でのキラ捜査には意味がない。 「おまえの方が不味いんじゃないか?」 「何故ですか?」 「さっき自分で言っただろ?僕がいつ女になったかなんて、証明しようがない」 「ああ……」 「僕達が手錠で繋がれている間に女になって……まあそういう関係になって。 それを誤魔化す為に“手錠が外れた翌日”女性になった事にした、と 思われても仕方ない。いや普通はそう思う」 「……」 竜崎は無言だったが、さすがに気詰まりになったか、床に足を下ろして立ち上がり 僕から距離を取った。 「何故夜神局長ではなく、私に相談するのかと疑問でしたが。 そういう事でしたか」 「そう。おまえはどう思うか知らないけど、手錠で繋がれた男女が 同じベッドで寝て、何も無かったと言っても、絶対に通用しない」 「そうですか……確かにあなたと関係を持ったと思われるのは、 色々な意味で不本意ですね」 全く、動じない奴だな。 まあ今の場合はその方がありがたいが。 「分かりました。協力しましょう。 具体的には何をすれば?」 「まず、キラ事件より僕の体の事がバレない事、元に戻す方法を探す事を 優先してくれ」 「それは……考えます」 「頼むよ。それで、他の捜査員が僕の様子を見に来ないように、 ずっとこの部屋に居てくれ」 「……」 「その、おまえは本当は、僕がキラだという考えを捨て切れていないんだろう?」 「……ええ。まあ」 「なら監視がてら、一緒に居たら丁度良いじゃないか。 昨日まで手錠で繋がってたんだ、それが数日増えても問題ないだろ?」 「……」 竜崎は、僕を睨むようにじっと見つめて暫く考えていた。 「……」 「……何」 一体何を、そんなに考えているんだ? と、詰りたくなった頃。 竜崎は覚悟を決めたように小さく頷いた。 「分かりました。もうしばらくあなたと一緒に過ごします」 「助かる」 竜崎と僕は、再び同じ部屋で過ごす事になった。 竜崎も僕の看病がてら休息を取る、という名目で、一日を共に過ごし、夜になる。 昨日までと同じく夕食が届けられたが、今日は珍しく花が添えられていた。 それもバラやガーベラと言ったテーブル用の花ではなく、観葉植物の葉と、 金木犀の枝が生けられた鉢だ。 「珍しいね。何だろう?」 「……」 竜崎の目が、金木犀に釘付けになる。 確かに、花の匂い……というか、自然の香りを嗅いだのは久しぶりだが。 「どうした?良い匂いだな」 「……」 竜崎は更に暫く黙った後、ゆっくりと口を開いた。 「……嗅覚は、五感の中で一番原始的な記憶を呼び戻す特殊な感覚です」 「?」 「対象に触れなくてもその構成要素を推察出来る、いわゆる『超能力』に 一番近い器官でもありますね」 「……」 竜崎の様子が、おかしい。 心ここに在らずと言うか、いつもかさかさと渇いた雰囲気を纏っているのが、 突然「どろり」と粘度を持ち始めたような。 いや、そこには触れてはならない。 絶対にスルーした方が良い。 「でも、何故今日に限って花が」 「今日は私の誕生日ですから」 「え?」 意外な答えに思わず高い声を出してしまうと、竜崎も顔を上げた。 「何が“え”ですか?」 「いや、色々“え”だよ。 Lが自分の誕生日言ったりして良いのか?」 「まあ、地球全体の人口の約365分の1に絞られますね」 そう言うと竜崎は脈絡もなく突然ジャンプして、僕が座っているソファの 肘掛けの上に飛び乗る。 僕が驚いていると、目の前にしゃがんだ。 「神様からの誕生日プレゼントですかね」 何が?何の話だ? 「……花が?」 自分の声が今まで以上に擦れている。 ぞわりと鳥肌が立つ。 思考より先に、嫌な予感が全身を震わせた。 「花は、ワタリからです。 私が主に滞在していた国には金木犀がありませんから珍しがったのでしょう」 「……」 また、個人情報。 普段は用心深過ぎる程用心深い竜崎なのに。 まるで本能の赴くまま、と言った話し方をする。 「でもこの香りは、ずっと昔私が日本に居た頃の記憶を呼び覚まします」 「日本に、居たんだ?どんな記憶?」 竜崎の顔がじわりと近付いて来た。 何とか躱そうと早口で喋るが竜崎は答えず、少し目を眇める。 「私、キラ事件に関わるようになってから、全く女性に触れていません」 「……」 長い指がカメレオンの舌のように伸びて、 「冗談、だろ?」 また僕の首を捕らえる。 「長い禁欲生活でした」 指は僕の首筋を這って、顎を掴んだ。 「い、いやだ」 「髭まで消えてますね。女性の肌で、女性の匂いです」 「……!」 おまえを抱くとか、犯すとか。 言われるよりも、僕の言葉が全く届いていない事に、背筋が凍った。 Lには感情も性欲もないだなんて。 僕は判断ミスを、したのか……? --続く……かも?-- ※2013/10/31 Lお誕生日おめでとう! Lを喜ばせたくて、美女を据え膳してみようと思いました。 が、ミサやウエディは何となくしっくり来なくて結局こんなん。
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