Trick so Treat 2 僕は再びベッドに入り、ベッドサイドの内線の受話器に触れ、 やはり思い直して携帯を取り出した。 『……はい』 「竜崎。今良いか?」 『はい』 「内々に相談したい事がある。来てくれないか」 『分かりました』 竜崎は何も聞かず、すぐに部屋にやって来た。 「もう体調は良いんですか?」 「さっきからどれ程も経ってないじゃないか……良くはないよ」 「そうですか。相談したい事とは? キラだと自白する気になりましたか?」 「あのな……」 僕は手招きをして、竜崎をベッドの傍に呼ぶ。 「キラ事件とは関係のない事なんだけど」 「……」 竜崎の目から一瞬で光が消え、無関心そうにマットレスの上にしゃがむ。 親指を咥え、僕から目を逸らした。 「事件が解決してからではいけませんか?」 「解決したらすぐ居なくなるだろ。 それに火急だ」 「はぁ……そうですか。手短にお願いします」 「性別が突然変わる……なんて事、あるのかな」 「ありますよ」 我ながら唐突な言い草だと思ったが、更に即答されて思わず仰け反る。 竜崎は事も無げに続けた。 「集団がメスばかりになったら、一番大きい個体がオスになり、 オスばかりになったら、一番小さい個体がメスになる。 そういった魚種は自然界では珍しくありません」 「いやいや!人間で、だよ」 「それもあります」 「!」 「人間は、男性から女性、女性から男性、いずれも基本半陰陽の場合です。 で、どちらかと言うと男性寄りだった半陰陽の人が、思春期に女性寄りになって行く、 あるいはその逆、非常に稀ですがどちらもあります」 「なるほど」 僕は半陰陽だった訳か……? 指摘された事もないし、自分の中に女性的な要素を感じた事もないが。 「寄りになって行く、という物ではなくて、もっと急激な変化ってあるかな」 「急激?」 「例えば一晩で」 自分の口から言うのも嫌で、僕はベッドの上に半身を起こす。 首や肩幅の細さ、胸、いずれにせよ言うより見て貰う方が早い。 「あり得ません」 「いや……」 見ろよ! 思わずツッコんでやりたくなったが、面白くもなってきた。 常に断定的に物を言う竜崎に、明らかに自分が間違っていた、という証拠を 突きつけたら、一体どんな顔をするだろう? 「なあ。僕の性別は?」 「夜神くんの?」 竜崎は用心深く間を置いた後、何故か僕を見ずに指を咥えたまま 天井を見つめた。 「男性……と私は認識しています」 「僕が女性だったら、おまえと手錠で繋いだりはしなかった?」 「そうですね。恐らく」 「それは何故?」 「何なんですか、この問答。 容疑者と関係を持ってしまったと誤解されかねない上に、その事は 捜査本部の皆さんと私との信頼関係に関わり、捜査の障害になり得るからです」 「なるほど」 竜崎がこう言った事に、意外と常識的な考えを持っていた事に感謝する。 「誤解という事は、もしキラ容疑者が女性で、おまえと手錠で繋がっても 肉体関係は持たない?」 「当たり前です。もしここが日本でなくて、私が単独で捜査をしていたのなら キラが女性であっても手錠で繋いだかも知れません。 が、容疑者と肉体関係を持つ事はあり得ません」 「そう。ありがとう」 「はい?」 「下らない仮定だと思ったんだろ? それでも真面目に答えてくれて、感謝する」 「用件はそれだけですか?」 僕はそこでニヤリと笑い、満を持してシャツのボタンを外した。 三つほど外した所で軽くはだけて、乳房を見せる。 さすがの竜崎も、目を剥いた。 だが、たった数秒で、 「……なるほど……そういう事でしたか」 すぐに受け入れたのも、さすがと言えばさすがだ。 「見ての通り、“有り得ない”けど、女性になってしまったようだ」 「……下の方はどうなってます?」 「下も」 「見せて貰えますか?」 「嫌だよ!」 思わず布団の中で膝を抱えると、竜崎は珍しく少し困った顔をした。 「ですよね……」 「当たり前だ!僕が男でも断る」 「しかし事実は徹底的に確認したいので。 せめて胸を、もう少し見せて貰えますか?」 「……」 まあ……気持ちは分かる。 先程自分でも同じような思考過程を辿ったから。 僕は仕方なく、ボタンをもう一つ外して胸をもう少しはだけた。 乳首が見える手前まで見せ、その後反対側も同じようにして見せる。 「少なくとも胸は、本物のようですね……」 「首や手首も少し細くなってるだろ?」 「確かに」 竜崎は無造作に手を伸ばし、僕の首に触れた後不意打ちで 親指で喉仏を押した。 「ぐっ!」 「Adam’s apple も、Eve’s apple くらいには縮小してます」 「Eve’s apple は胸だろ!喉仏確かめたいなら一言声掛けろよ」 竜崎は答えもせずに、じっと僕の顔を凝視していた。 「ウエディが帰国し、ミサさんが去った途端……ですね。 メスが居なくなったら、一番小さい、あるいは若い個体がメスに変化する……」
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