浜辺の恋を照らす月 1
浜辺の恋を照らす月 1








「……っ!ちょっと、動かないで下さい」

「ああ?」


プールの中で一度目が終わって、荒い息のままお互いの重い身体を支えあいながら、
足を引きずってスイートのベッドに移動して。
僕たちは再び、殴り合うように身体を交えていた。
Lに跨がって動いている時に制止されて、つい不機嫌な声も出る。

……だが、今まで看守に抱かれていた時は、最中に何を命令されても
何も考えずに従っていたのに。
何故瞬間、反抗的な態度を取ってしまったのだろう。

僕の下のLは喉を反らしたまま、僕の動きを抑えるように腰を強く抱きしめた。


「何」

「そんな事をされたら、あっと言う間に出てしまいますよ……」

「……」

「本当に、男を悦ばせるように出来ている身体ですね」


顎を引き、目をぎょろりと動かして、大きな瞳で僕を見上げる。


「ああ。そうなってしまったね。
 どんな感じ?自分が一人の男の人生を狂わせた気分は?」

「キラなんだから仕方ないでしょう。……それとも」


Lの目が、微かに不安げに、あるいは不満そうに細められた。


「ああ。記憶は戻ってない。
 自分がキラだったと納得してはいるけれどね」

「そうでしたか……なら、責任取りますよ。
 この素晴らしい身体ごと」


今度は快楽に目を細めるので、腰の動きを再開する。
僕の身体にしか興味がないような物言いに腹が立つが、
本当はそれだけでもないだろう、という事も分かっていた。


「次があったら、もっと凄いコト、してやるよ……」

「凄いコト、ですか……」


ごくり、と喉を鳴らされ、僕も無意識に締め付ける。
すぐにLは喘ぎ始めた。


「興味ある?」

「ええ。まあ。……ところで、あの男、とは、寝たんですか?」

「魅上か?」


全く。
僕が男だったら誰でも銜え込むとでも思っているのか。
……いや、誘ったけど。


「あいつは、僕を、抱かなかった。
 僕は、そうなっても、良いと思ってたんだけど、あいつは、真面目だから、」

「そうですか」

「満足か?」

「ええ、とても。あなたにも、ミカミにも、満足です」


Lは僕を抱きしめて、もう耐えきれないように腰の突き上げを早めた。
僕も意識を集中して、快感を追う。
この先僕が首尾良く長らえたとしても、一生絶対に言う事はないが。

……入れられて本気で感じたのは、初めてだった。


僕たちは明け方まで、お互いの身体を貪り合った。





「ったた……」


腕枕をしていた手を引き抜くと、極限まで痺れていた。
思わずバランスを崩して反対側の手で身体を支えると、腰まで痛む。

全く、無茶なセックスはするものじゃない。
あの収容所を出た時、こんな事はもうないだろうと思っていたのに
すぐにこんな羽目に陥ってしまった事が、何だか笑えた。

Lも僕もまるで浜に打ち上げられた魚のようだが、それでも。
横たわっているのは砂浜どころか、あのナイロンシーツの固いベッドとは
比べものにならない程寝心地の良いマットレスで。
隣で寝息を立てているのは……長い間、頭から離れなかった黒髪。


キンゴーン


その時、いかにもイギリス風な、教会の鐘のような呼び鈴が鳴った。
Lは、まるで目覚めていたかのように勢いよく起き、僕を一瞥だにせず
裸足にジーンズを穿いてドアに向かう。


「おはようございます」


開いたドアの向こうから聞こえたのは、ニアの声だった。


昨夜、今思うと酔ってどうかしていたとしか思えないが、
このガキと寝そうになっていた。
そこへマットからメールが入って。

慌ててニアを椅子に縛り付け、ワインボトルを持ってドアの脇で待ち構えた。
まさか知られているとは思わなかったのだろう、偽造らしいカードキーで
そうっと忍び入って来たメロを、思い切り殴打した。

と同時に、今Lの側にはマットしか居ないと気づき、襲撃に向かったのだ。
結局Lはおらず、マットが上を指さすので一人でスパに行った訳だが。

……それで、こんな羽目に陥っている訳だが。




「ニアですか……朝ですよ?内線でお願いします」

「呼びました。三回も」

「ああ……」


Lは頭を掻きながら、室内に戻ってきた。
ニアも、着いて入ってくる。


「そう言えば昨夜ジャックを抜いたんでした。失礼」


ニアは、裸でベッドにいる僕を見ても、眉一つ動かさなかった。


「キラは、確保したようですね?」

「はい」


昨日は、自分が僕を抱こうとしていたくせに。
自分で言っていた通り、命が長らえたとなると、
そうならなかった事に胸を撫で下ろしているのだろう。


「メロの様子はどうですか?」

「昨夜彼にワインボトルで殴られましたが、たんこぶで済みました」

「それはそれは」

「……もう、あんな事はごめんですよ。
 夜神に殺されそうになるわメロにも殴られそうになるわ」

「私は絶対に助けるつもりでしたけどね」

「……」


ニアは黒い瞳を伏せ、口をぎゅっと引き結んだ。


「とにかくこんな様子ですので、朝食後、下の部屋に集まって下さい」

「集まるとは?」

「ミカミも参加する、という事です。夜神も連れて行きます」


ニアは少し考えているようだったが、結局また無言で頷き、去って行った。




「……で。これからどうするんだ?」


そろりと訊く。
Lの出方によっては、自分の手を汚してでもコイツを始末しなければならない。
と思っていたが、当のLはのんびりとバスルームに向かっていた。


「そうですね……。
 キラを再び捕まえたと言えば、CIAは引き渡せと言ってくると思いますが」

「だろうね」

「誘拐されたミスを突けば私があなたを管理する事も可能でしょう。
 尋問も、もう気が済むまでしたでしょうし」

「……で?」

「どちらでも良いです。あなたはどうしたいんですか?」

「自信満々だな」

「何がですか」

「僕がおまえに管理されたいと、言うって信じてる顔だ」

「言わないんですか?
 まあ、また収容所に戻りたいと言うなら止めはしませんが」


コイツ……。

僕はベッドを降りてLに近づき、髪を掴んでその唇に噛み付いた。






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