花も散り込む月も見る 2
花も散り込む月も見る 2








「それは、僕に喧嘩を売ってるのか?
 それとも……誘惑しているつもりか?」

「さあ。どうでしょう」


一歩二歩、とわざと足音をさせてニアが縛られている椅子に近づくと、
その白い喉が微かに動いた。


「いいよ……痛くないように、してやるから」

「!」


仮面のようだったその顔がいきなり引き攣り、暴れ始めた。
何だ、そんなに精神的に弱いのなら、挑発なんかしなければ良いのに。
立とうとして、椅子ごとガタッ、と倒れる。


「痛い」

「大丈夫?」


態と猫なで声で言いながら椅子に縛り付けていたロープを外す。
目隠しを外そうとする手を押さえ、抱きかかえて寝室に向かった。


「やめて下さい、」

「どうして?興味あるんだろ?」

「……痛い事は嫌です」

「だから痛くなように、」


そうか。


「ああ、自分が入れると思ってたんだ?」

「……」


ベッドに投げ出し、覆い被さってその両手首を重ねて押さえると、
嫌々をするように頭をシーツにこすりつけた。
目隠しを外そうとしているのだろう。


「可愛いね。勃つの?精通はあった?」


首筋に口を付け、空いている手で股間を撫でながら言葉で嬲ると、


「っ夜神!!」


顔に似合わない、獣のような声でいきなり吠えた。


「許さない、おまえだけは」

「ははっ。冗談だよ。年端もいかない子に、変な事はしない」

「はぁ?私、もう十八ですけど」

「……マジ?」


思わず普通に驚いてしまったのが余程逆鱗に触れたらしく、
ニアは思い切り足を振って僕の拘束を解き、目隠しを外して床に叩き付けた。


「逃げようなんて考えるなよ」


肩で息をして、激怒した猫のようにふーっ、ふーっ、と吹いていたが
さすがにすぐに平静に戻る。


「分かっています。デスノートも見当たらないようですし」

「おまえの力なら、素手でもうっかり痛めつけてしまいそうだ。
 まあ、Lと連絡が取れるまでここで大人しくしておいてくれ」

「……」

「あ、でも『純潔』とやらを奪われたくなったら、いつでも声掛けて」

「Shut up!」

「……十八なら、遠慮はしない」


少し声を低めて言うとニアは黙り込み、後ずさってベッドに座り込んだ。

僕は、ニアを寝室に残してドアを閉めた。





リビングに戻るとメロの携帯から着信があった。
遅いくらいだが、色々と考えを巡らせていたのだろう。


『ニアは無事か?』

「ご挨拶だな。僕が知らないと言ったらどうするつもりなんだ?」

『ざけんなよテメエ!』


割れる怒鳴り声に、携帯を耳から離して思わず苦笑する。


「立場分かってる?」

『……ああ、済まない。……え?ああ……』

「何」

『Lと代わる』


少し待つと、すぐに人が代わった気配があった。


「竜崎」


呼びかけると、落ち着いた低い声が聞こえる。


『やってくれましたね、月くん』

「ああ」

『要求は私の名前ですか?』

「言うまでもない」


Lはこちらに聞こえるように、はぁ〜、と溜め息を吐くと、
口の中で何かを転がしているような声で続けた。


『当然ですが応じる事は出来ません』

「ならニアがどうなっても良いと?」

『とは言いませんが、ニアの命と私の命、天秤に掛けるなら
 明らかに私の命の方が重いですし』

「……」


電話越しに、ガリッ、ボリッ、という音が聞こえてくる。
どうも舐めていた飴玉か何かを噛んだようだ。
ふざけやがって……。


『ニアも優秀な子ですが、推理力・問題解決能力・財力・経験から考えて
 私の方が社会にとって有用でしょう。
 彼に負けているのは平均余命くらいですが、それも運次第です』

「……それ、ニアの前でも言えるか?」

『はい。というか、ニアも同じ結論を出すと思います。
 そういう子です』


……いや。
そう言ってはいても、本当にニアを見捨てる事は出来ないだろう。


「ニアに人質としての価値はないと言いたいんだな?」

『はい』

「なら置いておいても仕方ないから解放するか……」

『……』

「とでも言うと思ったか?」

『月くん』

「デスノートに名前を書いて、死の前の行動を操ってせいぜい利用させて貰う」


電話を切る気配を察したのか、『待って下さい月くん』と即聞こえてきた。


「明日の朝九時にはニアの名前を書く。
 それまでせいぜい考えておけ」


そう言い捨てて、今度こそ有無を言わさず電話を切った。






  • 春はおぼろに月かげ淡く 1

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