月が鏡になればよい 3
月が鏡になればよい 3








ああなるほど、もうカムアウトするつもりでのさっきのセリフか。
どう追い詰めて白状させてやろうかと思っていたので肩すかしを食らった。


「っていうかLの仲間だよな?」


と言うと、マイルは首を捻って「ん〜」とわざとらしく眉を寄せた。


「正確に言うと、俺は『L』の一員じゃない。
 今ここに居るのも、Lとは関係ない」

「ならどうやって僕を見つけた?」

「ここのライブカメラと監視カメラ、ハッキングしたの俺なんだ。
 で、あんたの顔は知ってた。
 何気にここ見てたら、あんたが現れて慌てて現場に来たって訳」

「へえ。それを信じろと?」

「いや、信じなくて良いよ。
 来たのも、別に何か情報を引き出そうと思った訳でもないし」

「……」

「ちょっとキラと話せたら、って思っただけなんだ。それじゃあな」


立ち上がり、軽く腕を捻っただけで、手首の拘束を外される。
何か体術を心得ている……やはりただのゲームバカじゃない。


「待てよ。僕がキラだとLから聞いたのか?」

「いや、だから俺はLの一員じゃないから、情報は回ってこないって」

「なら何故僕がキラだと」

「色々あって、あんたが『顔だけで殺せるキラ』より危険だってのだけ聞いた。
 けどそんな奴、元祖キラしかいないだろ?いつ出所したの?」


……確かに、こいつは思ったより僕の事を知らないらしい。
Lとそこまで親しい訳ではないのは確かだろうが。


「……脱獄したんだ」

「だよねー!キラがおいそれと出られる訳ないよな」

「君も、本当にLの一員じゃないんだな。
 そこまで言って、僕が君を殺すとは思わないのか?」

「思わないよ」

「何故」

「あんたは率直で、基本的に正直な人だから。
 それに俺がLに伝えられる情報なんて、あんたがここに戻ってきたって事だけだ。
 それも言わないけどね」


マイルは肩を竦め、上を向いて煙を吹いた。
まるで僕が彼を殺す事が出来ないという事を知っているかのような余裕。
やはり魅上に着いてきて貰えば良かった。


「本当にLの味方では、ないのか?」

「Lは好きだよ。だからLの好敵手だったあんたと話してみたくなった。
 でも、ライトも魅力的な人だと思うよ」

「でも僕は、そのLを殺したいと思っている」

「二人が殺し合う所は見たくないな」


そんな事を言いながら、もう僕に興味がなくなったように
ゲーム機を取り出して開く。


「ああ、でも今んところLが圧倒的に優勢だよ」

「……そうかな」

「Lはその気になればヤードを使ってあんたの居場所なんかすぐ掴める。
 あんたを逮捕させる事も出来る。
 まあそんな体裁の悪い事しないだろうけど」

「……僕としては、Lのプライドに賭けて僕を自分で捕らえようとする事を
 願うしかないって訳か」

「まあな。あんたがイングランドに来た時点でLの勝ちが決まったようなもんだ。
 ここはLの庭だぜ?」

「……」


本当か……いや本当だろう。
即、国外へ出るべきか……。
いや、Lの事だからもう空港は張っているか……。


「イギリスに来たのは偶然だが……しくじったな」

「正直だね」


何気なく言うと、マイルはまたゲームを閉じて、僕のすぐ側にしゃがみ込んだ。


「なら、一つハンディをつけようかな。
 Lの今のアジトは、ロング・エイカーの……」


いきなりすらすらと、ここからほど遠くない住所を、番地まで言う。


「すぐ近くじゃないか」

「前はベイカーストリートに居た事もあるらしいから、そうだったら
 もっと目と鼻の先だよ」


これは真実……だろうか。
この男が、Lを裏切るような事を、するだろうか?
それとも何かの罠か。


「Lの罠かも知れないと思ってるだろ」

「……ああ」

「別にそう思っても良いよ。どっちにしろそこには長く居ないだろうし」

「……」


本当だとしたら、一気に形勢は逆転する。
マイルは僕がすぐにはLを殺さないと思っているようだが、
僕はLとは違う。
居場所さえ分かれば、チェックメイトも同然だ。


「そう……ありがとう。
 Lが居たベイカーストリートって、やっぱり221Bの近く?」


マットはプッと吹き出した。


「そうそう、正に、221Bから一番近いフラットなんだ」

「へえ。Lにもそんな時代があったんだな」

「ああ。ガキだろ?L的には黒歴史らしいからオレが言った事内緒な」


言うと、マットは何かのレシートを取り出し、裏にアドレスを走り書きして僕に渡した。


「また何か困ったら連絡して。
 自分の居場所が俺にばれないようにね」






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