遠く離れて会いたいときは 6 「L、面白い事が分かった」 例によって、メロが報告を持ってくる。 「私も朗報があります。 夜神はあなたの名前を知らない事がはっきりしました」 伝えながら携帯を差し出すと、メロは一瞬泣きそうな顔をした後、 ふうーーっと長い息を吐いた。 「そうか……あんたがそう言うならそうなんだろうな」 「はい」 メロは小さく頷いて、私の手の下に両手を出す。 手を離すと、樹脂と金属の塊は真っ直ぐにその掌の中に吸い込まれていった。 「で。あなたの『面白い事』とは?」 「例の、被害者なんだけど。 ギャンブルで結構な借金を作ってる」 「ほう」 「後、病で余命宣告されていたようだ。加えて難病の一人娘もいる。 治療費の方でも借金が多いようだ」 「なるほど。面白いというか、聞くも涙、語るも涙、ですね」 あっけない程簡単なトリックだ。 病気で金も未来も失った男は、一攫千金を狙ってギャンブルに手を出す。 だがそちらでも借金が増えて、どうにも首が回らなくなった……。 そんな所へつけ込んで、奥さんと子どもに金を渡すから 公衆の面前で自殺をしろと。 そそのかした奴が居たわけだ。 少し考えれば分かる事だが、前日に本物のキラの声明が出た事から、 ヤードの連中も思考停止してしまったのだろう。 上手いやり方だ。 行動も素早く大胆。 本当にデスノートを持っていたら、キラになれたかも知れない。 まあ、サイトのお粗末さを考えると、長くは保たないだろうが。 自分がキラだったら、こんな風に金儲けをする、と ずっと妄想していたに違いない。 「後は、その交友関係からどうやって偽キラを見つけるか、ですね」 「それは地道な聞き込みしか」 丁度その時、メロの携帯が鳴る。 時刻は真夜中だ。 こんな時に鳴らすのは……彼しかいない。 メロはスピーカをonにして、通話ボタンを押した。 「ライトか」 『ああ、』 私が出なかった事に虚を突かれたのか、夜神は少し笑う。 『僕の事はLから聞いてるな?』 「……聞いている」 『なら話は早い。今日偽キラが言っていたサイト、見たか?』 「ああ、酷いな」 『メロもそう思うか』 夜神はまた笑った。 ここ数年分の「笑い」が溢れてしまっているのではないかなどと、 埒もない事を考えて少し頭を振る。 『さっき、例の偽キラの二人組の名前をLに聞かれて断ったんだが 考えが変わった』 「どういう事だ?」 メロが、私に顔を向けながら、夜神へとも私へともつかない 問いを投げる。 『名前を言うから、彼らの事を調べて欲しい。 あと、被害者の情報も』 「……」 それは……無条件では教えてくれるとは思ってなかったが、 考えてしまう所だ。 つまり、キラの裁きの対象となり得るかどうか、という事なのだから。 「教えなければ?」 『もう一度声明を出し、イニシャルを公表して自首を勧める。但し』 「?」 『その場合は、キラである事を証明する為に、まだ誰かを 殺さなければならない』 メロが、マイク部分を指で押さえてこちらを見た。 仕方ない……殺人を予告されて、それを容認する訳にも行くまい。 小さく頷くと、電話に向き直る。 『分かった。まず被害者だが、今分かっているのは……』 あの自殺男の気の毒な身の上をメロが話し終わると、 今度は夜神から二人の男の名前が伝えられた。 「何か分かったら、すぐに連絡する」 『嘘は、やめてくれ』 「大丈夫だ。信用しろ」 電話を切ると、メロはまた大きく息を吐いた。 「いつ、言わなければおまえを殺すって言われるかと思ったぜ」 「それがなかったから、あなたの名前は知られていないと分かったでしょう?」 「まあな。っつーかL、抜け駆けで夜神と話してたんだ?」 抜け駆け……この私が……。 「調べはどうしましょう?」 「私たちが調べるまでもありません。ヤードに任せましょう」 「どうしてこの名前を得たのか追求されたらどうします?」 「大丈夫です。『L』なのですから」 今までも、推理の過程は飛ばして警察に犯人を教えた事も多い。 確か裁判でそれが問題になった事例はない筈だ。 ヤードにメールを一通出して、我々の長い一日は終わった。
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