遠く離れて会いたいときは 5
遠く離れて会いたいときは 5








「L。ヤードから依頼です」

「今ですか?」

「はい。ハイドパーク殺人事件……今日の、あの殺人です」

「ああ」

「恐らくキラ事件と関連があるので、Lに初動捜査に参加して欲しいと」


本物のキラは、CIAから極秘に捕縛するよう依頼が来ている。
そんな時に余計な、というか面倒な事を……。
とは言えそんな事はヤードは知る由もないし、先方がキラ事件と説明しているのに
私が手を出さないのも不自然だ。


「まさかカメラをハッキングして一部始終を見ていたとも言えませんね」

「俺が……やるしかないか」

「メロ、無理する必要はありません。今Lの関係者として顔を出すのは危険です」

「勿論変装もするけど。
 いつキラに殺されても不思議はないんだから、やっぱりオレが行ってくるよ」


メロは何かを振り切るように言うと、それ以上私やニアが口を出す前に
目の前のPCを指差した。


「それより、これ見ろよ。例の自称キラが言ってた『公式ページ』」


それは、昔流行ったネオ・ゴシック風のごてごてしたデザインで
アフィリエイトだらけの騒々しいサイトだった。

その割には内容は、キラの過去の軌跡と理念、掲示板だけだが。
その掲示板は現在書き込みが多すぎてパンクしているらしく、
機能停止している。


「すげー。現在の閲覧者数、一万人超えてる」

「ニュースで放映していましたから」

「こりゃ、アフィリで儲けまくってるな」

「どうでしょう」


数分後、ニアが私を目で呼んだ。


「先程、ヤードに問い合わせたのですが」



  お尋ねの件、回答致します。

  ・「righteous_war.com」の作成者は、実在しない名前で登録されていました。

  ・「righteous_war.com」のアフィリエイト報酬の支払い先口座は、
   絶対に開示できないと各企業口を揃えています。



「なるほど。キラのサイトに載せてやるが、情報を漏らしたら
 トップを殺すとかそんな事を言われているんでしょうね。
 献金もしているかも知れません」

「これではヤードもお手上げだな。
 キラの声明を即座に利用した事と言い、偽キラも単なるバカじゃなかったって事だ」

「まあ彼らの場合、ヤードに捕まれば即ちキラに殺されてもおかしくありませんし
 必死でしょう」


しかし、キラを騙った理由が金だと分かっただけで
少し動きやすくなった。


「こいつ、夜神と関係あると思う?」

「いえ。99.9%ないと思います」


実際は100と言っても良いが。
0.1%は、夜神と偽キラが共にデスノートに名を書かれ、操られている可能性だ。


「どうする?」

「そうですね……このまま放って置いたら夜神が何とかしてくれる気もしますが」

「冗談ですよね?」

「まあ半分は」

「半分……」

「待っていても仕方ないので、まずは偽キラが、超常的な殺人能力を
 持っているのかいないのか、から調べましょう。
 殺された男の、身元と背景を徹底的に調べて下さい」

「了解!」




偽キラの事はメロとニアに任せて、私は夜神の協力者である東洋人の事を
調べ続けた。

まずは、夜神がブラックサイトに送られた事……その場所まで知っている
人物でなければならない。

しかしそれは、CIA内部にいて少しハッキングの腕がある者なら
誰にでも分かる事だ。

CIAに本人が居るのか、あるいは内通者が居るのか。

まずCIAに、最近辞めた、あるいは長期休んでいる東洋系がいないか
問い合わせると、数十分で回答があった。


トーマス・リー

中国系アメリカ人。
CIA構成員として捜査を担当。
一ヶ月前事故に遭い、重傷。現在自宅療養中。


ミカミ・テル

日本人で、一年前に永住権取得。
CIAの構成員として法務などを担当。
三日前に自主都合退職。



……いきなりビンゴか。

ミカミ・テル。

簡単に見つかりすぎて肩すかしだが、コイツだ。
ご丁寧にも、顔写真は偽パスポートと同じ。
レンタカーを借りるのにトーマス・リーの名前を使ったのも、
相手が大怪我で自宅療養となると、特に他意はないのだろう。

ポケットに入れていたメロの携帯を取り出し、リダイヤルボタンを押す。
コール音二つで、夜神は出た。


「月くん。ご相談があります」


私を「竜崎」と呼んだ意趣返しに、敢えて親しげに「ライトくん」と呼ぶと、
一瞬息を呑んだ様子が感じられて、ほくそ笑む。


『何だいきなり』

「例の偽キラの名前、教えていただけませんか?」

『……何の話だ』


さすがに用心深いが、思考を巡らせる前に畳みかける。


「知ってますよね?」

『……』

「ミカミが見たんでしょう?」

『っ!』


微かだが、確かに狼狽えた気配があった。
成功だ。
私が不意打ちでミカミの名前を出した事に、さすがに動揺を隠せなかったらしい。

博打だったが、この反応で分かった。
ミカミが「目」を持ったキラである事はどうやら間違いない。


「私があなたとミカミを見つけた経緯を知りたいですか?」

『……ああ』

「あの集会、実は企画したの私なんです」

『……』

「あなたをおびき寄せる為でしたから、当然ライブカメラであなたの動きを
 チェックしていました」

『……』

「勿論、ミカミが偽キラを途中まで追ったのも、見ていました」

『……』


夜神は今、頭をフル回転させている筈だ。
そして私の言った事がハッタリではないという結論に至った筈。


『……何故、偽キラを追っていたのが僕の協力者だと分かったんだ』

「クロアチア空港の監視カメラであなたの側に居たのと同一人物だったので」

『……』

「それで、実はヤードから偽キラの捜査を依頼されましてね」

『……そう』

「面倒くさいのであなたに犯人の名前を教えて貰えないかと」

『ああ、いいよ。但し、おまえの本名と交換だ』


夜神は今度は即答する。
その頭の切り替えはさすがだ。


「論外です。誰が自分の命と引き替えに事件一つ解決するんですか」

『殺さないと言ったら?おまえを牽制出来るだけでいいんだから
 名前を聞いてもデスノートに名前は書かない』

「デスノートと言うんですか、あの殺人ノート。
 でも、私の本名を聞いても試さなければ本当かどうか分からないでしょう。
 あなたは、私の名を聞いたら書くしかないですよね?」

『……良く分かってるじゃないか。ならこの交渉は決裂だ。
 次からはこんな下らない電話はしてくるな』


あっさりと殺意を認め、夜神は通話を切ろうとする。
……何となく会話を終わらせるのが惜しい気にもなって、追い打ちを掛けた。


「いえ、下らなくもありません。収穫はありました」

『……』

「何故この機に、言わなければメロを殺すと脅さないんですか?」

『……』

「メロの名前、見てないんですね?」


答えがないまま、唐突にプツ、と通話が切れる。
私は思わず笑ってしまった。
今、夜神の心の中は荒れ狂っているだろう。






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