遠く離れて会いたいときは 4
遠く離れて会いたいときは 4








たっぷり二時間ほど経過した頃、メロが戻ってきた。


「かなり用心したようですね」

「ああ。ロンドン中のデパートをうろうろして帰ってきた」


ポケットから、何種類ものチョコバーを出して机に並べる。
安堵している筈のニアは、興味なさげにカードタワーを積んだ後、
ぽん、と手を打った。


「あ。言うの忘れてました。
 夜神も協力者も、タクシーでどこかへ行きましたから
 尾行の心配はありませんでした」

「てめえ!」

「嘘ですよ、メロ。協力者が何人いるのか分からないんですから
 用心するに越した事はありません」


メロは、まだ火を噴きそうな目でニアを見ていたが、
ふと思い出したように目を輝かせてPCに向かった。


「どうしました?」

「夜神に発信器つけたんだ」

「ほう」


しかしすぐに、肩を落とす。


「高級老人ホームかよ……夜神の奴」

「すぐに東洋人が気づいたようでした」

「マジで!」

「でも、そのお陰で彼が夜神に話し掛け、協力者である
 確証が持てたんです」

「……慰めてくれなくても良い」


メロは携帯を取り出し、ボタンを操作した。


「ならこれも望み薄かも知れないけど。夜神のケー番ゲットした」


思わずニアと顔を見合わせる。
ニアは心持ち青ざめていた。


「すまない。どういう訳かあいつは俺がLの身内だと……
 どうした?」

「いえ……何も」

「って感じじゃないよな。言ってくれよ」

「あなたが殺人ノートに名前を書かれ、
 死の前の行動を操られる可能性について考えました」

「……」


メロの顔色も悪くなる。
言わずとも、その先が分かったのだろう。


「あなたが夜神に私の情報を渡さず、帰って来られたら
 無事だと思いましたが……」

「……電話番号を交換したって事は、いつでも情報を流して
 死ぬ可能性があるって事だな?」


私は努めて明るい声を出した。


「とは言え、その可能性は極めて低いですけどね。
 夜神にも私がこう考える事は分かるでしょうから。
 危険は少ないでしょうが念のため、丸二日携帯を預からせて下さい」

「いや、もう解約する。
 オレが夜神に情報を流す可能性は、どんなに小さな芽でも摘み取る」

「まあまあ。罠であったとしても、先方の情報は貴重です。
 メロ、直接聞いたのですか?」

「ああ。目の前でオレに電話した」


メロから携帯を受け取り、ぶら下げてみるとそこには確かに
見知らぬ番号が映っていた。


「まあ、身元は割れないように盗品を買ったんでしょうが……」


言いながら発信ボタンを押すと、


「「L!!」」


メロとニアが仲良く一緒に叫んだ。
それを手で制し、コール音を聞く。
程なく。


『……Yes?』


聞き違えようのない、懐かしい声が聞こえてきた。
二度と話す事などないと思っていた。
ヴィデオを見ていた時とは違う、不思議な臨場感に軽く鳥肌が立つ。


「……」

『メロか?』

「……」

『……違うな。……竜崎?』


名前を……五年前に一度親しみ、そして捨てた名を呼ばれて、
電話を持つ手がぴくりと震えた。


「……はい」

『そうか……まさか、同じ国内にいるとはな』

「……」

『……っくっく』


夜神の、喉の奥で笑う低い声を聞きながら通話ボタンを切る。
昔はあんな笑い方をする男ではなかったが……間違いなく、夜神だ。


「……な?」

「繋がりました。では、報告を聞きましょうか」






「では、夜神はまともな様子だったんですね?」


ニアが確認すると、メロは大きく頷いた。


「ああ。とても収容所であんあん言ってた奴と同一人物とは思えない」

「なら似た別人という可能性は?」

「いや……」


メロが微かに眉を顰め、言葉を濁した。


「奴がアイスクリームを舐めている時……エロいっていうか、
 ……ちょっと、慣れ過ぎてるというか」

「……慣れてるかも知れないじゃないですか。
 アイスクリームを舐める事に」

「……そうだな」


気まずそうに顔を逸らし合う若者二人に苦笑して話を戻す。


「あんなメッセージを作ったんですから正気ですし、どう見ても同一人物ですよ」


収容所でいくら不遇を受けても、夜神の精神は折れなかった。
そして今、キラとして復活してこの私と対峙している。

最初にメロに話し掛けてきたのは、あるいは偶然かも知れないが
メロの反応、僅かな表情の揺らぎから、Lの手の者だと看破した。
さすが夜神、と言ってやって良いだろう。


「まったく。メロは油断し過ぎ、夜神を舐めすぎです」

「てめえだって夜神は狂ってるって言ってただろう!」

「まぁまぁ」


喧嘩ばかりでは仕事は進まない。
という事が分からない程二人とも子どもではないので、いつもすぐに収まるが。
「なだめ役」という人員が欲しくなってきた。


「それに、あいつだってLを舐めてた。
 簡単な変装もせずに来たのは、自分がイギリスにいる事が
 まだバレてないと思ってたって事だろ?」

「そうかも知れませんが、私の手が伸びていると分かっても慌てず、
 携帯番号を交換したりしているのですから、大した度胸です」


間違いないのは、夜神が私に近づこうとしている、という事だ。
あのキラのメッセージ動画、メロに話し掛けた事。

仮面の自称キラとは、何か関係があるのか。
いや、あれは……。


その時PCから電子音がして、ニアが電話を取った。
それを潮に、メロも別のPCに向かう。


とにかく夜神の行動を考えると、私が夜神を捕縛抹殺しようとしているように、
夜神も私を抹殺しようとしている……。

としか思えない。

面白い。
受けて立とうではないか。

最後に勝つのは、私だ。






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