遠く離れて会いたいときは 2 結局十二時を少し過ぎた所で、全てのカメラ映像がモニタに映し出された。 「選択がこれね。で、これが角度調整で、これがズーム」 持参したゲームのコントローラに繋いで、自在にウェブカメラを操る。 しかし基本的には全自動で満遍なく辺りを映すようになっていた。 私はサブモニタルームで、カメラ越しに沢山のモニタを見る。 「ニア?」 「……」 ニアは「観る」事に集中し始め、何も聞こえなくなっているようだ。 「んじゃ、俺もう帰るね」 「……」 マットは、肩を竦めてゴーグルを着ける。 しかしドアを開けると、聞いていなかったように見えたニアが、 寝ぼけているかのような声を出した。 「……ありがとうございました……」 「どーいたしまして」 「……今度メロに連絡させます……」 「いや、いいよ」 「させます」 マットは苦笑して、もう一度肩を竦めると 今度こそ出て行った。 マットがいなくなったので、私もメインモニタルームに戻る。 ニアは振り向かなかったが、気配を察して身体をずらした。 言わずとも、沢山のモニタを二分割して、それぞれ自分の担当をチェックする。 程なく、画面の一つにメロが見えた。 「メロがいますね」 「はい。こちらのカメラでも確認来ます」 それから。 「マット」 「え。マットがいたんですか?L」 ニアが驚くのに、指差してみせる。 モニタの中のマットは、それに気づいたかのように カメラを見ないまま、手だけをカメラに向けてピースサインを作った。 「手助けしてくれるつもりでしょうか?」 「いえ……野次馬根性だと思います……」 しかし、何かの助けになるかも知れない。 一応マットの携帯電話にも、すぐ連絡がつくようにした。 ……やがて。 ニアが唐突に、しかし静かにコントローラのボタンを押す。 モニタの一つが、一時停止状態になった。 「……L」 そこにいたのは、間違いなく。 「夜神……ですよね?」 「はい」 「一人のようですね」 「まあ、分かりませんから用心に越した事はありません」 ニアは床に転がっていたPCの一つに繋がったインカムを着けた。 「メロ、聞こえますか?」 『ああ。いたか?』 メロには、イヤフォンとピンマイクを着けてある。 「スピーカーズ・コーナー付近、アイスクリーム売りのカートがある所、分かります?」 『行ってみる』 「その辺りに一人でいます。協力者から逃げたのかも知れませんが、 協力者に追尾されている可能性もあります」 『ああ』 「正気を失っているかも知れないし、失っていないかも知れないので慎重に」 『言われなくても全部分かってる!』 小声で怒鳴りながらモニタの中のメロが走る。 やがて、夜神と同じ画面に入り込んだ時には、丁度件の店で アイスクリームを買っている所だった。 夜神が離れた少し後、メロも同じ物を買う。 『親父、さっきこれ買った男、どんな感じだった?』 『ああ?何だね?』 メロが小声で喋っても聞こえるように調整してあるので、 相手の声もある程度鮮明に聞こえた。 『いや、頭がおかしくなって失踪した従兄に似てて』 『まともそうな感じだったよ。声掛けてみたらどうだい?』 『ああ、そうしようかな』 そんな会話をしている間に、ニアはマットの携帯に電話する。 「マット。至急スピーカーズ・コーナーに向かって下さい」 こちらは声は聞こえないが、画面の中のマットを見る限り機嫌は良さそうだ。 「挨拶もなしにどうのこうのとか面倒くさい事を言っていますが、 向かってくれてはいるようです」 「そうですね」 ……!? その時、画面の中のメロと夜神が止まった。 目が合っているように見える……。 不味いか……? と思った時。 キイイーーィン…… メロのピンマイクを通して、超音波並の高音が響いた。 現場でハウリングを起こしているものが、メロのマイクを通して 更に増幅されているらしい。 「メロ。今のは一体」 その時、付近のカメラに映った全ての人間が動いた。 その視線を計算すると、どうやら一つのステージ上に向けられているらしい。 だが、音声が一切入ってこない。 「メロ?答えて下さい」 『……』 「応答を。このチョコレート魔人!甘味バカ!」 メロは全く反応せず、ステージの方に顔を向けている。 「こちらの声も聞こえていないようですね」 「先程の超音波でマイクとイヤホンが壊れたんでしょうか。 ところでニア、甘味バカとは……」 その時。 小さな声の気配に気づいて、放置されていたニアの携帯に スピーカを繋ぐと、マットの声が流れた。 『ああ、やっと届いた。Lも聞いてる?』 「はい。すみません、メロのマイクが壊れてそちらの様子が」 『なら丁度良い。このまま繋いで聞いていてくれ』 携帯電話の、唯でさえ不鮮明な音の中で、更に遠くの音を拾っていて、 それが更にあちらこちらにエコーしているのだからこれ程聞きづらい音もないが、 録音しながら聞く。 『……ず、私が本物のキラだと……為に、動画の……同じく ……死んで貰います』 「L。これは」 「マット。ステージ上の人物が話しているのですか?」 『そうです』 モニタの中では、メロと夜神が連れ立ってステージの方へ向かっている。 一体どういう事だ。 「予定外ですね……」 「はい。そして予想外です……」
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