今宵の二人にゃじゃまな月 2 休日のハイドパークは普段でも人が多いと聞くが、今日はお祭り騒ぎで ごった返していた。 マスコミのカメラも来ていたので、写らないように気をつけながら 久しぶりに、人混みをかき分ける経験をする。 しばらくして振り向くと、きっちり二十メートル程後方に、魅上がいた。 目が合っても手を上げたりせず、軽く頷くだけ、という慎重さに満足する。 それから屋台でアイスクリームを買い、更に人が多いスピーカーズコーナーの方に 向かった。 「……?」 ふと、視線を感じて横を向くと、金髪の若い男と目が合った。 何だ……? 偶々、と言うには少し長い、コンマ五秒ほど視線を合わせた後 ふい、と横を向く。 よく見ると、その手には僕と同じアイスクリームが握られていた。 気づかずに順番を抜かしてしまった……? いや……あの目は。 魅上に連絡して、念のために名前を見て貰おうと思った瞬間。 キィイイイイイイ………… ハウリング音が大音量で響き渡り、周囲に居た何人かが耳を押さえる。 何事かと思って見ると、手作りらしい背景幕つきの特設ステージの上に…… マイクを持った人物が立っていた。 イタリアのカーニバルのような仮面を被り、マントを羽織っている。 『皆さん』 大音量のマイクの声と、森に響くエコーと、またハウリング。 だが今度はすぐに収まった。 あれは誰だ、このイベントの、主催者か? 『私は、キラです』 ?! ……なんだと? 辺りの人も一斉にステージを向き、ざわっとどよめきが起こった。 振り向くと、魅上も呆然としたようにステージに釘付けになっている。 何気なくさっきの金髪を見ると、何故かこちらを妙な表情で凝視していて 僕の視線に慌てて顔を逸らした。 だが、今はそんな事よりステージだ。 『今日はお集まり頂き、ありがとうございます』 ざわめきが、大きくなる。 ……なるほど。 便乗犯、といった所か。 キラの為に集まる場所で、キラの振りをすれば一瞬スターの気分になれる。 だが本物のキラが来た時に備えて、顔を出す気はない。 小学生レベルの悪戯か。 下らない。 踵を返そうと思ったその時、 『まず、私が本物のキラだと証明する為に、動画の時と同じく 一人死んで貰います』 ざわっ また、空気が震えるほど辺りが騒々しくなり、人々は小さな悲鳴を上げるか 呆然と立ち竦んでいた。 皆が皆、ステージから一歩二歩引いた時。 例の金髪の男が、ステージに向かって駆け出す。 僕もそれを追って人混みをかき分けながら走った。 リュークの話では、人間が持っているデスノートは、現在一冊。 どうせ奴はキラの能力は持っていない。 『そうですね……それでは、そこの赤いジャケットのあなた』 「ひっ!」 『あなたの事は何も知りませんが、生まれてから今まで 一度も罪を犯さなかったとは言わせません』 「た、たすけ、すけてくれ!」 ステージ側まで来ると、マイクで拾わない声もよく聞こえた。 どうやらキラもどきが誰かを指名し、その周囲が円状に空いている。 金髪が立ち止まったのでそのすぐ後ろに立つと、円の中心で 赤い上着を着た男が腰を抜かしているのが見えた。 「どうする?」 金髪に話し掛けたが、彼も驚きもせず、 「様子を見る」 即答した。 「彼が死んだら?」 「キラの殺人方法が白日の下に曝される」 「なるほど」 冷静で、頭の回転が速い。 その冷徹とも言える判断に、一瞬Lを思い出した。 まさか……な? 思考が伝わったかのように、金髪の男はこちらに顔を向けた。 僕の目を見ながら、走っている間も手放さなかったアイスクリームを ゆっくりと舐める。 「オレの名前はメロ。あんたは?」 「マーク」 「東洋人に見えるが」 「親が移民だ」 それ以上僕の事を探って来そうだったら離れるつもりだったが。 僕もアイスクリームを同じようにゆっくりと舐めてみせると、 メロは不思議な……憐れむような目をした後視線を逸らして前を向いた。 『死んで下さい』 ステージ上の「キラ」が、赤い服の男を指さす。 すると男は……突然動きを止めて無表情になり、立ち上がった。 そして服のポケットからナイフを取り出すと、 「……キラ様の復活を祝って!」 突然叫び、止める間もなく自らの首筋に突き立てた。 周囲が悲痛な悲鳴で満たされる。 「!」 「しまった!」 「まさか……」 「本物の、キラ?」
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