今宵の二人にゃじゃまな月 1
今宵の二人にゃじゃまな月 1








「月様……どうですか?世界の反応は」

「上々だよ」


優雅に紅茶を飲みながら、窓際のデスクに置いたPCから世界を覗けるのだから、
この世は便利になったものだ。

各国ではキラのメッセージに対し、賛否両論喧々囂々だ。

新世界の神として、キラを待ち続けていたと賞賛する者。
以前のキラとは別人なのではないかと、穿った見方をする者。
キラが裁く世界は、やはり不健全だと喚く者。

だが表だって批判する者はいない。
報道も事実を伝えるのみだし、各国警察は揃ってだんまりだ。
恐らく皆、他国の出方を窺っているのだろう。

だが重要なのは、世界がキラの復活を認識したという事実だ。





魅上に傅かれ、外出したい時に外出し、食べたい物を食べられるという経験により
僕は自分を取り戻した。


だがこれは、本来なら僕が自力で手に入れていた生活。
贅沢をしたいと思った事はないが、あのまま大学を卒業すれば
間違いなく警察官僚になれていただろう。

そうすればやりがいのある仕事、偶の休み、偶の贅沢、
平凡でもそれなりに生活しながら、キラとして世界に貢献する事も出来た筈。


僕がキラであったという事実。
これはもう覆しようがないようだ。

それを納得してしまうと、キラの思考も理解できてしまった。

また魅上が席を外した隙にリュークに訊いてみると、
ノートの所有権を捨てればデスノートの記憶を失い、また手にすれば戻るらしい。
それを利用して、Lの疑念を晴らそうとしたのだ。
残念ながらそのノートは焼失したので、もう記憶が戻る事はないが。

過去の僕が、そこまで拘った「キラ」。
実際に人を殺した感触はないが、きっと確実に世界を良く出来ると、
信念を持てる程の経験だったのだろう。


「ならばやはり、Lは邪魔だ……」


僕が第三のキラのノートに触れ、記憶を取り戻す事が出来なかったのは、
僕の計算違いなのか不慮の事故なのか分からないが。

Lに一度負けたのは、間違いない。

奴は頭脳で僕を倒しうる能力を持った、恐らく唯一の人間だ。
これからもLの動きを牽制しながらキラの裁きを続けるのは難しい。


「月様……やはり、Lを殺しますか」

「それしかないな」

「では、」

「奴の居場所を探るのは不可能だ。
 向こうからこちらを探すようおびき出す」


言うと魅上は、眼鏡を外して僕の顔を覗き込んだ。


「月様。誰かLの身近な人物の写真はありませんか?」

「魅上……これからは、僕が良いと言うまで人を殺すな」


Lの身近……とは言えないが、連絡を取れる人物と言えば
日本の警視総監と父がいるが……。
彼らを操ってLを呼び出させるなどという事は出来ない。
失敗したら目も当てられないし。

キラの失敗……というか未だに僕も納得できないのは
罪もない人間を殺した所だと思う。

FBIの人間にも尻尾を掴まれないよう、南空ナオミにも事件に手を出させないよう、
今思えばもっと上手いやりかたはあった。

あんな事は、二度とあってはならない。

……潰すのは、L一人だけだ。


「ほら、キラのメッセージ動画を作ったんだ」

「ほう……」


魅上は興味深そうに画面を見つめた。


「その、随分挑発的ですね」

「ああ、幼稚だろ?」

「……」

「だがそれが、あいつには効くんだ。Lはこれで絶対に動く。
 それに、これくらい分かりやすい方が、世間にも認知されやすいだろ?」


キラの復活が。

言わずとも分かる。
魅上はノートを開き、僕が指示した人物が、僕が指示した時刻に死ぬよう
書き記した。





そして目論見通り。
マフィアが死んで、たった数時間でTVもインターネットも
大騒ぎだった。


「世界はまた、キラに熱中している」

「そう言えばハイドパークで、最早キラ信者の集会が行われるそうですね」


ああ、知っている。
誰が言い出したのか知らないが、ネット掲示板で盛り上がってきたのは
キラのメッセージを発表してから僅か一日、翌朝の事だ。


「すぐそこだな」

「その、警官も大勢待機するでしょうから月様は」

「大丈夫、僕の顔は各国トップか情報機関にしか知られていないよ」


本当は別にどうでも良いのだが、魅上に過保護にされればされる程
我が侭を言ってみたくなる。


「十三時からか……ちょっと行って来る」

「お待ち下さい。それなら私も、」

「おまえは僕の切り札だよ。出来るだけ人目に曝したくない」

「しかし!」

「大丈夫。僕が連絡したら、指示に従ってくれれば良い」


それは、僕が危険な目に合いそうになったら助けてくれという意味で
魅上を安心させるためだけの言葉だったが。


「それでしたら、最低二十メートル離れて着いていきます。
 死神の目のお陰で視力は良いので、あなたに何かあったら、」

「……分かった。ただし、それでも僕の指示を待て。
 僕が、指示を出したくてもどうしても出せない状況だと判断した時だけ
 デスノートを使ってくれても良い」


妥協すると、魅上は不承不承頷いた。






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