この袖でぶってやりたいもし届くなら 2 慌ててそこいらの紅茶だのPCだのをなぎ倒し、件のモニタのリモコンを見つけて 音量を上げる。 『……キラを名乗る動画が投稿されたのは、マフィアの突然死の少なくとも 三時間前で、偶然と言うには……』 夜神……! 「やられましたね」 「はい」 急いでPCを引き寄せ、動画サイトを開くと「KIRA」というタイトルの動画があった。 ニュースを見たのか、見る間にアクセス数が増えていく。 というか、既にコピーされて何件も投稿されていて どれがオリジナルか見当が付かない。 その内の一つを開いてみると。 かつてTV放映用に松田が用意したキラのヴィデオとは違い、 弥が作った手書きの物とも違う、シンプルな「KIRA」の文字。 それがフェイドアウトしたと思うと、少し残してその上に、英語と日本語で 映画のエンドロールのようにメッセージが流れ始めた。 お久しぶりです。キラです。 しばらく活動を休んでいましたが、再開したいと考えています。 私が本当にキラである事を証明する為に、 メキシコで先日警察署長一家を惨殺をした麻薬密輸組織のボスに 罪を償って貰います。 現地時間で十月三十一日15:00です。 報道が事実を隠せば、また次の犯罪者を裁くまでです。 この動画の続きを見るのは私がキラだと証明された後で結構です。 さて。 五年前、キラに対する批判も高まり、少し様子を見ていたのですが 一向に犯罪者は減らない。 やはり平和な世界の実現の為には、私の力は必要と考えます。 特にICPOの皆さん、各国警察の方々。 本当に犯罪を防ぎたいのなら、私を利用してみませんか? それとも、犯罪がなくなっては、困りますか? 大丈夫です。 私は裁くだけですので、皆さんの捜査の手はこれまでと同じく必要です。 私が裁くタイプではない犯罪者を挙げるのにも。 最後に、L。 過去に、あなたが私を捕縛しようとした事には、目を瞑ります。 これからは協力して平和を実現しませんか? もし「否」の場合はボスの死から三日以内にその理由と共に 返答を願います。 「……」 「……」 これは、世界に向けたメッセージと見せて、実はあからさまに 「L」に対する挑発だ。 「どうします?L」 五年前、キラの裁きが止まった時。 公表した訳ではないが、Lがキラを仕留めた事を大衆は認識していた。 だがこれではまるで、キラが自分の意思で裁きを止めたかのようだ。 それに、Lに対するメッセージ。 答える必要はないが、答えなければLが了承したと解釈する馬鹿も 世間には沢山いるだろう。 幼稚で、負けず嫌い。 キラがそうで、私もそうだといつか夜神に言った事があるが。 手元にあった砂糖入りの紅茶を、何気なく取り上げて 動画を再生したPCのキーボードにとぷとぷと注ぐ。 モニタがフリーズした後、オリジナルの非常用プログラムで全てのログを消去して、 PCはシャットダウンした。 ニアはそれを、目を丸くして見ていた。 「……さて。動画サイト管理者に、メッセージのオリジナルを投稿したPCの IPアドレスを問い合わせて下さい」 「はい……」 夜神なら少なくとも数カ国のプロキシサーバを経由しているだろうから、 場所が特定出来る可能性は低いが。 「キラに対する返答の方はどうします?」 「必要ありません」 「それは」 「何故なら、三日以内にキラを確保するからです」 「……分かりました」 夜神……いや、キラ。 私が、絶対に、おまえの息の根を止めてやる! 一時間ほど経った頃、日本警察から通信が入った。 「ワタリです」 『日本警察特殊捜査班の夜神だ』 「ああ、夜神さんですか、Lです」 『Lだったのか!久しぶりで何だが、』 「キラの件ですね?」 夜神月から連絡が行ったのか? 『いきなりだが、月は、息子は、今拘束されているな?』 「ああ……その件ですか」 『PCも使えないな?』 「そうですね」 『キラからのメッセージを見たか?どう見ても本物だ。 という事は息子はキラではなかった証明にならないか?』 父性愛。 とは、残念ながら愚かな物だと思う。 私自身は向けられた事がないから理解しているとは言いがたいが、 一般的に子どもが親に反抗したくなる気持ちも分からなくはない。 「残念ですが一応、第四のキラ、という方向で考えています。 息子さんは初代キラで間違いありません」 『しかし……』 「キラは必ず確保します。我々に任せて下さい」 『……L。いや、竜崎』 「何でしょう」 『もう一度訊くが。息子は本当に、拘束されているのか?』 語尾が、震えている。 前言撤回。 父性愛の勘も、馬鹿にならない。 だが今日本警察に妙な動きをされるのは不味い。 「第二のキラ以外、キラがああいったメッセージを 出した事はありません」 『ああ』 「月くんがキラなら、あんな地味な「KIRA」ではなく、松田が作り、 日本警察がキラとして流した画像使います」 「そうだな……」 実際は逆だが。 第三者なら、松田のあれが本当にキラのメッセージだと思っているだろうから 可能な限り真似をするだろう。 全く違う画像を使っている、という所が逆に、夜神を感じさせる。 以前のキラのメッセージがフェイクだと知っている者だ。 それを私に伝える為に、敢えてシンプルなロゴにした……。 つまり夜神は、キラの記憶を取り戻したのだろう。 だがそれを今、夜神総一郎に伝える必要はない。 「今回のキラのメッセージは、私に対する挑戦です」 『……かも知れない』 「月くんなら、日本警察を経由して私に連絡出来る事を知っていますから あんな目立つ事をしたのは、それを知らないという事です」 『そうか!』 「勿論、第四のキラが日本人であれば協力をお願いしますから、 心して待機していて下さい」 『分かった』 マイクのスイッチをオフにすると、ニアが不思議そうな顔をしていた。 「夜神が脱走した事を伝えて、協力を要請しても良かったのでは?」 「父性愛とは、時に暴走するものです」 「?」 ニアに、死を賭して息子の無実を証明した夜神総一郎の情熱を 伝えるのは難しい。 結局、物問いたげな視線に答える事はなく、新しいPCに向かう。 こんな時にすかさず、熱い紅茶と甘いケーキを持ってきてくれる、 ワタリが側にいないのはやはり残念だと思った。
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