首尾を拾った夜の月 2 バスルームからは、ドライヤーの音が聞こえ始める。 なるほど、濡れ髪で人前には出ないか。 几帳面な男らしい。 「もう少し時間があるようだから、質問を続ける」 『何だ今度は』 「デスノートを使う、メリットとデメリット」 『ああー、それは、使う人間が決める事だな』 「?」 『おまえと最初に会った時も聞かれたけど、人間の場合、 使えば自分の寿命が延びるとか、死んだら地獄に落ちるとか、 そんなメリットもデメリットも何もない』 「……は?ただ殺すだけ?」 『テルの場合は、殺す事によって沢山の紙切れが手に入ったり、 おまえの復讐をして自分が満足したりしたが、それがメリットと言えばメリットだ』 ……キラは。 自分を犠牲にしても、世界を良くしようとしているように見えた。 また、自分だったら、キラの能力をきっとそんな風に使うだろうと思った。 なのに、デメリットがないのか……。 それが、キラを堕落させたのかも知れない。 などと他人事のように思う。 死神……リュークにもう一つリンゴをやっている所で、 Tシャツとジャージのパンツを着けた魅上が現れた。 寛いだ姿だが、姿勢が良いのでLとは全く印象が違う。 って、何故今Lを思い出す? 「月様。お先でした」 「ああ」 「リュークに、リンゴを?」 「勝手にルームサービス頼んですまない」 「いえ!ただ、月様とリュークは久しぶりの再会なのだと、 改めて思いました」 「まあね」 魅上は、疑う様子も無くしみじみとしている。 それから差し向かいで夕食を食べ、シャワーを浴びて魅上が用意してくれた パジャマを着て、ベッドに向かった。 「本当に、申し訳ありません」 「だから別に良いって」 ツインのベッドに横たわっても、魅上は恐縮していた。 「おやすみ」 「……」 「どうした?」 「いえあの……おやすみなさい」 「……」 「その、申し訳ありません。誰かが隣に寝るなんて久しぶりで、 それがキラ様だと思うと」 「別に気にしなくていいよ」 「はい……」 僕だって、誰かとこんな風に寝るのは久しぶりだ。 狭いベッドの上で折り重なった状態で、気を失わされた事はあるが。 「どうした?寝ないのか?」 「……月様。一つ、懺悔をして良いですか?」 「別に。それで落ち着いて寝られるなら、何でも言ってくれ」 「……」 「魅上?」 「……私は……。正直に言いますと……」 「……」 こういう過剰な気の使い方は、鬱陶しいな。 魅上の数少ない欠点の内の一つだ。 「監獄のあなたを見て……欲情してしまいました」 「……」 「いえ!その、普段は男の裸などに興味がある方ではないのですが あなたは、何故か」 「……僕を、抱きたいのか?」 「いえ!……いえ。そんな、滅相もない、」 軽い気持ちで言ったが、魅上は過剰に反応した。 上半身を起こし、こちらに顔を向けて真剣な顔をしている。 そんな、大した事ではないのに。 僕の方が気まずくなってしまう程に。 「……抱きたければ、抱けば良い。 おまえはそれだけの事をしてくれている」 「……っ」 「ただし。何年も犯されて肛門は傷だらけだし、 性病を患っている可能性もゼロではない。 あいつらの素行は知らないからな」 「……」 「それでも良ければ、好きにすれば良い」 魅上はしばらく無言だったが、やがて枕に突っ伏して小さな嗚咽を上げ始めた。 男の癖に……。 というか何故泣くのか理解できない。 やがて声は止み、ゆらりと立ち上がって僕のベッドの方に来た。 掛け布団を上げて、迎え入れる。 どうせ、男には抱かれ慣れてるんだ。 こんなに一方的に奉仕されるよりは、魅上にもメリットがあった方が 僕も落ち着く。 腕を首に絡めようとしたが、それより前に魅上は布団を更にめくり、 僕のパジャマの、ズボンを脱がせた。 意外とこういう事は性急なのかと思ったら…… 横を向かせて、いきなり僕の尻に顔を近づけた。 鼻息が掛かる……気持ち悪い。 と、突然、ぬめった熱い物が、僕の尻の穴を。 「魅上……!」 両手の指で尻を開き、舌は周辺を這った。 それから、中心に近づいて。 「……っ」 丹念に丹念に、時には少しだけ舌先を穴に差し入れ、 まるで動物の母親が我が子にするように、僕の尻を舐め続ける。 こいつ。 あの収容所の看守達のような、変質者だったのか……。 僕は運が悪い。 何故こういったタイプの男にばかり会うんだ……。 我知らず、何だか、変な気分になってしまう。 「魅上……もう、やめろ……」 黙って耐えるつもりがつい声を上げてしまった。 だが魅上は素直に離れ、下着とパジャマのパンツを上げた。 「やめて」と言って止めて貰った事が無いので、その反応を新鮮に思う。 「どうして……こんな事を」 「少しでもあなたを癒やせればと。 それに、性病などと言われたら、私が抱かなければ恐れているようで」 僕の狙いを、読んだ上での事か。 相手が性病かも知れないと言えば、普通はセックスを躊躇う。 だが、魅上なら逆にムキになって、したくなくてもするのではないかと思った。 「でも、私にはとてもあなたを……あの野獣がしていたように扱う事は出来ない。 せめてその事を分かって頂きたく、あのような事をしました。 お気に障ったら、申し訳ありません」 切り口上で言い終わると、再び僕の隣に横たわり、 今度は緩く、抱きしめる。 「……おやすみ」 「はい。ゆっくりお休み下さい」 ジムにでも行って鍛えているのか、魅上の身体にはきれいな筋肉がついていた。 広い胸に抱かれていると、こいつの彼女になる女はきっと幸せなんだろうな、と思った。
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