夢ならさめずにほしいと願う 1
夢ならさめずにほしいと願う 1








「L、ブラック・サイトの監視カメラ映像を入手したぜ」


メロが意気揚々と帰ってきたのは、夜神の失踪の知らせを受けた
翌々日だった。


「お早いお帰りで」

「悪い。こんなに遅くなる筈はなかったんだけど」

「往復ヴァージン・アトランティックを使ったんでしょう?
 帰りはクロアチア航空の方が早かったですよ」


メロはフットワークは軽いが、航空会社にしろ何にしろ、
少し拘りが強すぎる。


「自ら足を運んだのですか?」


対するニアは、メロが飛行機に乗った事にすら驚いている。
彼一人なら、絶対現地の便利屋に代行させただろう。


「勿論!証拠隠滅されたら困るからな」

「ですからCIAともブラック・サイトとも関わりのない第三者を
 慎重に選んで頼めば、あと一日早く手に入ったでしょう」

「信用できないし選ぶ手間も惜しい。自分で行くのが一番確実だろ」

「そんな事を言って二日も掛かって」

「うるせえ!」


メロとニアの、いつもの諍いは放って置いて、旧式なヴィデオをセットする。


「メロは見たんですか?」

「ああ。上書きしていくタイプだからそれだけしか残ってなかったけど、
 解析すればある程度過去の映像も見られるんじゃね?」

「そうですか、それは助かる」

「……でも、それだけで十分だと思う」


すぐに始まった白黒の映像は、テープが古いせいかノイズだらけだったが
内容を把握するには十分だった。

……いきなり、裸でベッドに転がった、夜神の映像。

一見、五年前とあまり変わっていない。
髪は伸び、少し痩せたか。

だが異様だったのは、腕を後ろに捻られ、変な縛り方をされている事。
長時間そのままなのだろう、腕が赤黒くなり、尿も垂れ流しているようだ。
何より、堪える事も出来ず漏れてしまうらしい、苦しげなうめき声。

眉を顰めると、メロは早送りした。
その耐えられないような状況で一時間程経過した後、黒ずくめの人影が現れる。


『どうだ?キラ。何か思い出したか?』

『……』

『おっとしゃべるなよ?お楽しみはこれからだ』


戒めを外すと、夜神が更に苦しげな悲鳴を上げる。
壊死寸前だ、腕が痺れて辛いのだろう。

男は構わずズボンを下ろし、夜神の髪を掴んでその顔を自らの股間に押しつけた。
夜神は喉の奥で呻きながらも、従順に咥えているようだ。
やがて男は夜神の尻に跨がり、挿入したかどうかは見えなかったが、
前戯も何もなくいきなり激しく腰を振り始める。

だが、その後は一分ほどで動きが止まった。
面倒くさそうに夜神を突き飛ばしてシーツで自らの股間を拭う。
射精したら全てどうでも良くなったのか、登場した時の勢いもなく無言で出て行った。

その間夜神は蹲ったまま動かない。
しかしやがて、這って目隠しのないシャワースペースに行き
シャワーを出して、その下で膝を抱えて座り込んだ。

その見る者を意識しない胎児のような姿は、十分に哀れを誘うものだった。


「……」

「……」

「……な?」


三人とも無言だったが、最初にぽつりと言ったのはメロだった。


「こうなると、思ってた」

「まあ……望ましくはないですが、ブラック・サイトとしてはこんな物でしょう」


とは言え、私もこれがあの夜神かと思うと少し胸が痛まなくもない。
ニアも一応見ていたが、彼は全く無関心のようだった。

やがて、先ほどの男より大柄で太った黒ずくめが映像内に入ってきた。


『ライト』

『ダーリン!』

「?!」


夜神はよろよろと立ち上がり、男に駆け寄ってその首に濡れた腕を回す。


『もうやだ!こんなの、』

『ライト、ごめんね。ごめんね。痛かったね、辛かったね』

『痛いより、ダーリン以外の男にされるのが、嫌だよ』


あの夜神の口から出たとは信じられない、舌足らずで幼いしゃべり方、
その内容も、どうかしているとしか思えない。
夜神は急に声を潜めて、男の耳に口を近づけた。


『あいつ小さいし早いし』

『よしよし、今すぐこの大きくてぶっといのを上げるからね』

『ああ……ダーリン!』


男は夜神にキスをすると、ベッドのシーツを引っ張って丸めて放り、
手早く新しいシーツを掛けた。
そして、もつれ合うようにベッドに倒れ込む。


『ダーリン、ダーリン……ああっ!いいっ!』

『ライト!おまえも最高だ!』

『ああん、だめ……ああ、あん、……気持ちよすぎて、死んじゃいそう……』


男同士の濡れ場に、メロが歯をむき出す。


「吐き気がする……早送りしていいか?」

「何か重要な事は言っていませんでしたか?」

「分からない。前も早送りしたから」

「なら、見ましょう。メロは席を外しても良いですよ」

「いや、いい」


結局二時間ほど(!)夜神の鼻に掛かった嬌声を聞き続けた所で、
唐突に男は動きを止めた。


『……ダーリン?』


いや……これは、事が終わった訳ではない……。
男の物は硬度を保ったままずるりと抜け、その巨体はベッドの下に
転がり落ちた。

夜神は一瞬呆然としていたが、すぐに降りて心臓マッサージを始める。


『起きて!ダーリン!……お』


そこで唐突に、テープは終わっていた。
静止した夜神、その上に走る、太い横縞のノイズ。
指をくわえたまま、思わず見入ってしまう。


「……多分ここで、監視室に入った侵入者がテープを止めたんだと思う。
 この後自分が夜神の所に行ったんだろうな」

「成る程」

「夜神はもう、アレだな、警戒しなくて良いな」


メロが、頭の横で人差し指をくるくると回す。


「問題は、侵入者の方だが……こんな状態の夜神を、
 連れて行くか?という疑問も残る」

「そうですね……私でも、長年準備した計画だとしても、
 肝心のお宝がこれだったら、取り敢えず投げ捨てて逃げます」

「珍しく気が合ったな」

「他にないじゃないですか。合うとか合わないとかの問題では」


メロとニアがまた言い合っているが。


「私は……夜神がおかしくなっている、という点から保留にします」

「ええっ?!」

「……」


確かに……音声だけ聞いていれば、そう思っても仕方が無いが。
不鮮明ながら、あの、目。
大柄な男に抱かれ、喘ぎ声を上げている間も、夜神の目はどこか
醒めているように見えた。

だがそれは、


「それは、あなたが以前の夜神を知っているからだと思います。L」


ニアに言われるまでもなく、その可能性も自覚している。


「そうだよ、以前はどれだけ頭が良かったか知らないけど、
 今はどう見ても気が触れてる。
 男に尻を振るしかない、頭のおかしいホモだよ」

「演技です」

「まさか!最初は演技だったとしても、何年もあんな生活続けてたら
 どんな男だって狂う。夜神がまだ生きてたのが、奇跡的なくらいだ」


まあ……現時点では彼らに何を言っても無駄だろう。
今の夜神を見ていたら、そう思っても仕方ない。


「それでは、侵入者が夜神を捨てたと仮定したら、どうなります?」

「もう一度クロアチアに行って、施設周辺で夜神が保護されていないか調べる。
 死体だったとしても何かに使えるかも知れないし、
 もし生きていたら侵入者の情報が聞けるかも」

「私はクロアチア大使から送られてきた、日本人旅行者のリストを今洗います。
 日系人は少し遅れるそうなので、脱走当日の全搭乗者リストも貰いました」


本当に、出来の良い子たちだ。
だが。
ニヤリと笑うと、二人が不安げな顔になる。


「それには及びません。
 ニア、旅行者だけでなく、空港スタッフについても調べましたか?」

「いえ……」

「今日、オシイェク空港の、チェックイン受付が一人
 交通事故で死んだそうです」

「!」

「まさか、」

「偶然かも知れません。しかし」

「殺人ノートを使って死の前の行動を操った……という事は。
 前もってパスポートの偽造がしにくい人物、例えば夜神を搭乗させた……?」

「至急、その人がチェックした搭乗者のリストを取り寄せます」

「特に、日本人でなくとも東洋系を重点に調べて下さい。
 あと、その受付カウンタが映っている監視カメラ映像もお願いします」






  • 首尾を拾った夜の月 1

  • 戻る
  • SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送