星の数ほど男はあれど 2
星の数ほど男はあれど 2








「おいL。CIAから、カーネイが死んだって連絡があったぜ」


私の助手として働くメロがPCルームに飛び込んできたのは、
私がキラ事件から手を引いてから、五年後の秋だった。

ワタリはキラ事件が終わる時、火口を死なせた事に責任を感じて
自ら一線を退いていた。
勿論ワタリの射撃には寸分の狂いもなく、正確にタイヤを打ち抜いていたし
エンジンに引火したのは不幸な偶然に過ぎない。

だがそれとは別に、この老いた執事の功を労い、休養を与える為にも
仕事量は減らした。

代わりに、ワタリとしての事務的な手続きや交渉、
その他私の補助を頼む為に、ワイミーズハウスから
二人の子どもをピックアップした。
それが、メロとニアだ。

特に役割分担はしなかったが、ニアはL寄りの、メロはワタリ寄りの
仕事が増えている。

対照的な個性を持ちながらもいずれ劣らぬ頭脳と特質を持った二人。

今もし私に何かあっても、きっと代替わりした「L」と「ワタリ」として
存在し続ける事が出来るだろう。

そう思うと、気が楽になる。
キラと対決していた頃の、「今は絶対に死ねない」といった緊張は少ない。


「カーネイ」

「ほら、クロアチアのブラック・サイトの責任者」

「ああ」


Lとして個人的に出資し、夜神月専用に改築した、郊外の邸宅だ。
記憶がないのだから他のテロリストと一緒にしないよう、
無茶な拷問はしないよう、一応指示してあるが以降はノータッチでもある。


「それが何か?」

「心臓麻痺だそうだ」

「……」

「それに昨日、CIA幹部が三人、同じく心臓麻痺で死んでいる」

「共通点は?」

「名前はって聞かないんだな」

「そんな記号に意味はありません。
 あなたなら、もう調べがついているのでしょう?」

「……五年前。夜神月がキラだと認め、ブラック・サイトに送る事を決定した奴らだ」


キラ。
夜神月。

どちらも久しぶりに聞いた、ある意味懐かしい名前だ。
あれ程心躍らせた事件も、命の危険を感じた事件もなかった。


「メロ。至急、クロアチアのアメリカ大使館に連絡を」

「了解」


その時、頭上のスピーカからツッ、と通信状態に入った音がした。


『メロ、何やってるんですか。
 クロアチアのマクリーシュ大使から連絡が入りましたよ』

「てめえが受ければいいだろう!」

『そちらに回します』

「おい!」

「メロ、丁度良いです。私が聞いてみましょう。
 ……マクリーシュ大使。Lです」


マイクスイッチを入れると、少し慌てたような低い声が流れてきた。


『ああ、L。初めまして』

「社交辞令は結構。用件を」

『キラ容疑者が、消えました。面目ない』


夜神が……失踪?
あり得ない。
キラの記憶はなくとも頭は抜群に切れる容疑者だ。
セキュリティには万全を期した筈。


「……詳細を」

『三人の当直者は、全員死んでいました。死因は現在の所不明です。
 入り口のロックは爆弾で破壊され、独房に至るセキュリティロックも
 全て外部PCからクラックされています』

「外部から?」

『はい。何者かが、ヤガミを脱走させたのです』

「分かりました。取り敢えず、一ヶ月以内にクロアチアに入国した
 日本人と日系人をリストアップして下さい」

『……了解した。申し訳ない』

「謝って貰う必要はありません」


通信を切ると、メロがニヤニヤしながらこちらを見ていた。


「殺されたメンバーを見ると、あんたがまだ生きてるのが不思議なくらいだな」

「殺人ノートを使ったとしたら、少なくとも顔が必要ですから。
 今後は気軽に人前に出られませんね……」

「誰が夜神を連れ出したんだと思う?」

「見当も付きません」


弥ミサ……いや、彼女も記憶を失っていたし、日本警察がそれとなく監視している。
順調に芸能界で力をつけて来ているようでもあり、迂闊には動けないだろう。

夜神総一郎?
夜神の拘禁に納得してはいなかったようだが、単身CIAに刃向かう程
無謀な人物ではない。
何より、殺人ノートを手にしたとしても、使えはしないだろう。


「とにかく夜神を攫った奴は、ブラック・サイトを見つけ、突破する事が出来たんだ。
 いずれここにも来るんじゃないか?」

「何のために?」

「恨みを晴らす為」

「夜神に恨まれているとは思いませんが」

「あんたが捕まえた時点ではそうだったかも知れない。
 でも……人権も後ろ盾もない、キラ容疑者。
 綺麗な顔した東洋人の少年。
 収容所でどんな目に会ったか、想像出来るよな?」

「……」


そうならないように、出来るだけの事はした。
……最初は。

だがやがて、夜神は私の手を離れた。


「ホモ好みのマッチョにされてるか、人体実験の果てのフランケンシュタインか。
 夜神が当時の面影を全く止めていなくても、全く驚かないぜ俺は」

「……」


そんな事は問題では無い。
夜神を憐れむ気持ちもないではないが、それよりも、
キラ容疑者が脱走したという事実が深刻だ。

脱走補助犯は、少なくとも殺人ノートを持っている。

もし、何らかの方法で夜神がキラの記憶を取り戻したら……?

肌が粟立つのは、新たなキラ事件への恐怖なのか。
あるいは……期待か。


「クロアチア大使館かCIAか。
 いずれどこかから依頼が来るでしょう。準備を」

「Yes,sir!」


おどけたように敬礼をするメロの目にも、どこか緊張が走っていた。






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