星の数ほど男はあれど 1 「火口。どうやって殺人をしてきた。 キラとして、どうやって人を殺して来た?!言うんだ!」 ヘリの中のマイクを取って言うと、隣の席で夜神が物言いたげにしていた。 どうせ「今尋問しなくても」といった事だろう。 だが、今聞かなければ。 いつ全てが終わらないとも限らないのだ。 「言わなければどんな手を使ってでも言わせます」 変声器を通した自分の声が、高速道路に響き渡る。 火口にはきっとこれがLの声だと、そして私が本気だと、分かるだろう。 逸る気持ちを抑える為に、ワタリが入れてくれた紅茶を飲んでいる間、 側壁にぶつかって止まったポルシェの隣で膝を突いた火口は、無言だった。 だが、やがて。 『……ノートだ』 「ノート?」 『信じられないだろうが、顔を知っている人間の名前を書くと 書かれた人間が死ぬノートだ』 ノート…… 『車の中のバッグに入っている……』 「や、夜神さん。一応車の中にそんな物があるか見て貰えますか……」 『分かった』 いや待て! 「Stop!夜神さん、急いで車から離れて下さい!他の人も!」 ボッ! 一旦リアエンジンに炎が見えたと思ったら、次の瞬間 ッドンッ!! 空気を震わせる爆発音と共に車が後ろ半分を中心に吹き飛んだ。 衝撃波で車の周辺にいた人間がもんどり打つのが見え、 二人ほど炎に包まれた。 火口……。 これも、キラの……夜神月の仕業なのか? 結局、火口は死んだ。 あの引火爆発が本当に事故だったのか、火口による自殺だったのか、 以前のキラの仕業なのか判断する材料は今のところない。 夜神局長と火口を押さえていた警官達は、ヘルメットのお陰もあって 一命を取り留めた。 大けがをした者もいるが、まあ、時間が経てば回復するだろう。 「で、夜神さん、どうでした?火口の車の中」 そして今、夜神局長の入院先に、夜神月と共に見舞い……と称した 事情聴取に来ている。 だが内容はあまり期待は出来なかった。 「確かに開いた鞄から、黒っぽい……ノートのような物が 見えていた気もするが、よく分からない」 「ですよね……いや。あの状況では仕方ありません」 口惜しいが……これでもう、火口からキラに辿り着く事は出来ない。 ヨツバのメンバーも、火口以上の事は何も知らないだろう。 「竜崎。その……これから、どうなる?」 局長の視線はまず私の手首に置かれ、その鎖を辿って息子に向けられた。 夜神月も、心なしか青ざめているように見える。 「今後またキラの裁きが始まれば、振り出しに戻ります」 「……裁きが、止まったら?」 来たか。 だが、私とて不本意な結果だ。 「残念ながら、月くんをシロと断定する証拠は出ないでしょう」 「だが!日本の法律では、疑わしきは罰せずと言って、」 「国際法では状況証拠だけで、拘束出来ると思います。 私は物証がないのは好きではないので逮捕していませんが」 殺人手段がノートに書く事なら、人の手に渡っても不思議はない。 死神とやらまで出て来たのだから、ノートを手放せば 記憶も消える、という事もあるだろう。 だが。 夜神月は、間違いなくその手で殺人ノートに書き込んだ。 少なくとも、恐田奇一郎とレイ・ペンバーと南空ナオミは ほぼ証明出来ると言って良い。 それから一ヶ月。 念のために夜神と手錠で繋がって生活したが……新たな被害者は、出なかった。 「月くん、お願いがあります」 「……碌な事じゃないんだろ」 「CIAの、ある調査……いや、研究機関に、行ってくれませんか?」 「就職の斡旋じゃなさそうだな」 ああ……。 夜神ほど勘が良くなくても、分かるだろう。 ブラック・サイト。 CIAの秘密収容所……拘禁施設だ。 世界各地に設置され、非合法に拉致したテロ容疑者を拘束している。 米国では違法に当たる拷問を行うために、主に東ヨーロッパに点在しているが、 ワシントンポストがすっぱ抜いて以来その存在は半分公になった。 警察官僚志望の夜神なら、それ位の情報は知っているに違いない。 「……安心して下さい。 快適に……少なくとも、人間らしい生活は出来るよう、私から言ってあります」 「断ったら?」 「夜神月の名は」 キラ容疑者として全世界に公表され、正式に裁かれる。 「……」 「裁判に掛けられるのは立証できる数件だけでしょうが 誰もが、他の何十件もあなたが殺したと知る」 「僕は、本当に、覚えていないんだ」 「記憶がない、というだけでは心神喪失は主張できません。 あなたが、その気になれば簡単に人を殺し、 Lを欺く人間であるという事実は変わりません」 監禁も含めて何十日も夜神を観察し、何ヶ月も手錠で繋がれて生活した。 正直、これ程他人と接して生活したのは初めてだがそれでも、 それなりに快適に過ごせたのは、彼が率直で、聡明だったからだと思う。 それに、少なくとも手錠で繋がれていた間、彼はキラではなかった。 今となっては間違いなく。 そんな夜神の、絶望に満ちた顔を見ていると胸が痛まなくもないが。 「今なら、留学という形を取る事が出来ます。 ご家族や、友だちにも、誰にもキラ容疑者だと伝える必要はありません」 「……」 世紀の大事件にしては、我ながら割り切れない幕引きだが。 私も遊びで探偵をしているわけではないし、世界中の事件も待ってはくれない。 私は夜神の手錠をワタリに渡し、それはワタリからCIAに移った。
|