天下無敵 6 海外に行ったと言うのに、手ぶらで……モバイルPCを小脇に抱えただけの 竜崎が現れた。 普段荷物を持ちなれていないせいか、少しだけ息が荒い。 竜崎は、ソファの上で寄り添っているアイバーと僕を見て一瞬眉を上げたが すぐに部屋を見渡して状況を理解したらしい。 「二人で二本……多いとも思えませんが、夜神くんはお酒に弱いんでしょうか」 ただいまも言わないで、いきなりそれかよ。 アイバーは答えず立ち上がり、何も持っていないと言うように 両手を広げた。 「で?」 「あなたの、勝ちです。L」 ……。 ……勝ちって、何が? いやな予感に、一気に血が下がって少し眩暈がする。 僕が眉間に皺を寄せて目で問うと、竜崎はこちらを向き直って 淡々と答えた。 「アイバーと、私がいない間にあなたを落とせるかどうか、賭けました。 私が負ければ、彼の好きな国での永住権を与える筈でした」 「ま、実際は私が負けたんで、次にお手伝いする時はノーギャラ、 という事になりますが」 「……」 ……ああ。 そんな奴だったな、おまえは。 人の心を玩び、その事に何の罪悪感も抱かない。 「そんなに、睨まないで下さい夜神くん。不安だったんです。 私はあなたを愛していますが、あなたが私を裏切らないかどうか」 人差し指をくわえて上目遣いで言われても、全然可愛くない。 というかアイバーの前でそんな事を。 竜崎と僕の……夜の関係は既に知られていたという訳か。 それを知っていたら、もう少し余裕を持って会話出来たのに。 「……でも、今朝は僕に近づかないように言っていたじゃないか」 「はい。あなたの前でそう言っておかないと、アイバーと寝る事自体が 私の指示だと思われる可能性もありましたから。 それでは、私に忠実なのかどうか判定できません」 頭が、痛くなってきた。 飲みすぎた事ばかりが原因ではないだろう。 大きく溜め息を吐くと、アイバーはこちらを向いて僕の肩に手を置いた。 「ライト、ごめんなさい。 今日私はあなたに沢山嘘を吐いたが、最後に言った事は本当です」 そう言うと、顔を上げた僕に向かって、竜崎に見えない角度で ウインクをする。 それから悪びれた様子もなく屈託なく笑って、手を振りながら部屋を出て行った。 「竜崎」 「アイバーと、何があったんですか?」 「その前に言う事があるだろう」 Lは「はぁ」とか言いながら頭を搔き、猫背をいつもより少し丸めて 「申し訳ありませんでした」 と言った。 こいつの謝罪は、やっぱり軽いな。 「で。アイバーは負けたと、あなたを落とせなかったと言っていましたが 本当なんですか?」 「何だよ。勝って文句を言うなよ」 「そうなんですが」 言いながらPCをテーブルに置き、すっ、と距離を詰めてくる。 無視していると、勝手に僕のパンツのファスナーを下ろし始めた。 「やめろよ」 「確認するだけです。射精した形跡がないかどうか」 「馬鹿じゃないのか?」 それ以上何を言っても無駄なのは分かっているので、眉を顰めたまま やりたいようにやらせる。 竜崎は僕のペニスを取り出し、ためすがめす見たり匂いを嗅いだりした後、 口に含んだ。 ……一応竜崎なりの謝罪の仕方なんだろうが、やる事なす事どこかズレてるな。 「あ……」 それでも、酒で敏感になった体は素直に反応してしまい、 僕は一層足を広げて股の間にある竜崎の頭に、手を置く。 ……あなたが、魅力的な人だというのは本当です。 ……あなたが、ハンティングトロフィーだと言ったのは、嘘です。 アイバーがどういうつもりで言ったのか分からない。 だが、最後の満足そうなウインクと笑顔を思い出すと、 負けた者のそれとは思えなかった。 彼は実は、Lに勝った、あるいは少なくとも引き分けたと 思っていたのではないか……? ああ。 そう言えば、最後に「僕がキラだというのは全部仮定だ」と言って ひっくり返すのを忘れてた。 アイバーに僕がキラだと、認めたままの形になってしまっている。 つまり彼は僕を、ある意味「落とした」つもりになっている訳だ。 ……いや実際、間違いではないし、落とされた、か。 彼は最初から「負け」はないように、二重の意味で僕に罠を掛けていた。 僕が気付かない間に。 竜崎にもバレないように。 どうやら、当代一の名探偵も、新世界の神(今の所大量殺人犯)も 天下の詐欺師に手玉に取られたらしい。 笑い出した僕を訝しげな顔で見上げながら、 竜崎は僕の服を脱がせ始めた。 --了-- ※忘れていた宿題、アイバー登場の巻でした。 アイバーは月がキラだと分かった上、月もLに気持ちがあるという事が分かって ちょっと面白がっています。 アイバー最強みたいになって申し訳ない。 でも「一流の詐欺師」って強い駒だと思うんですよねー。 死神がいなければ。
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