天下無敵 5 「ライト?」 「……すみません。少し酔ったみたいです」 「横になる?ベッドに運ぼうか?」 「いえ、一人で大丈夫です」 「ライト」 「何ですか」 「泣いてる?」 つい反射的に頬に触れたが、当然涙は流れていなかった。 当然だ。自覚もないのに泣いている筈が無い。 「泣いてませんが」 「そう。何となく、泣いているような気がした」 「気のせいです」 アイバーが、自分の方が泣きそうな、何とも言えない微笑を浮かべて 僕の首筋に、手を置く。 気持ち悪い事をするな、と振り払うには、その暖かさは気持ち良すぎた。 「君は、物じゃない。トロフィーでも剥製でもない」 「……」 「君がキラであろうがなかろうが、それ以前に魅力的な『夜神月』という人間だ」 「……」 「と、私は思います」 どことなく直訳調な科白に、思わず笑ってしまうと、アイバーは 更に僕を引き寄せた。 「冗談だと思いましたか?本気ですよ。食べてしまいたい位だ」 「……」 いよいよ危険な気配に、頭は何とかしなければと思っているのに 体は言う事を聞いてくれない。 というか、彼はウエディと……違うのか? 「男も、いけるんですか?」 我ながら間抜けな事を聞いてしまった物だが、アイバーは軽くウインクをした。 「大丈夫です。こう見えて、ボーイハントも得意なんです」 「ははは」 もう、笑うしかなかった。 覆いかぶさってくる、厚い胸板。 酔いを増長させるような、コロンの香り。 このまま眠ってしまえたら、気持ち良さそうだな。 ……って駄目だ。流されている場合じゃないだろ。 「……僕がLのトロフィーだとしたら、彼を怒らせる事になるとは思いませんか?」 「う〜ん、だからこそ余計に、奪ってみたくなるのかも」 「そう言えば……ウエディも同じような事を言っていました」 「何と?」 「Lと僕が手錠で繋がれていた時……Lが僕を所有していると。 盗みたくなると」 「そうか……彼女とも、気が合うんですよねぇ、私」 言いながら、匂いを嗅ごうとするように僕の首筋の鼻先で撫でる。 「それに、私はLより上手いですよ? もっともっと気持ちよくして上げられます」 「!」 僕は、思わずアイバーを押し返してしまった。 「ライト?」 「……あなたはLとも……寝たんですか?」 竜崎を、抱いたのはあなたなんですか? いなくなった遊び相手って、ウエディじゃなくて竜崎の事なんですか? 犯罪者に、欲情する竜崎。 忘れそうだったが、こいつだって、犯罪者だ……。 アイバーは、少し呆気に取られたように口を開いた後、神妙に引き結ぶ。 それから、何か言おうと息を吸った所で、遠くに電子音が微かに響いた。 エレベーターがこの階に到着した音だ。 「……時間切れです」 体を起こし、残念そうに笑いながら大袈裟に肩を竦める。 「何が?」 「実は、私は明日出国します。二度と会えないとは言いませんが、 次にあなたに会う時私は、別の名前、別の容姿、別の人格です」 「……」 「それでも私と見抜く事が出来たら、先程の質問に答えましょう」 「アイバー」 「それから」 彼は、不意を突いて僕の頬に唇を付けた。 「!」 「あなたが、魅力的な人だというのは本当です。 あなたが、ハンティングトロフィーだと言ったのは、嘘です。 申し訳ない」 「?」 何を言っているんだ?と、考えている内に、部屋の扉が開いた。 「早かったですね、L」 「おかえり竜崎……」
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