Trick and Treat 1
Trick and Treat 1








「来週処刑される罪人に、デスノートを試してみようと思います」


竜崎が突然口を開いた。


「おまえが?」

「まさか。同じく二週間後に処刑予定の罪人に書かせるんですよ。
 それで、十三日経っても彼が死ななければあのルールは無効という事になる」

「待てよ、キラ事件より僕の身体を治す事を優先してくれるんじゃなかったのか」

「そちらも勿論動いています。
 世界中の動物学者、生物学者、医者、めぼしい者何人かに仮定の話としてメールで問い合わせていてその返事待ちです」

「でも、」

「大丈夫です。あなたの身体は私が必ず何とかします。
 デスノートの検証はその余暇でも何とでも出来ますよ」


起きたら突然女性の身体になった、その二日目。
竜崎は僕がキラである事を疑いつつも、秘密裏に元の身体に戻す方法を探す協力してくれている。

しかし不味いな……来週、という事は早ければ五日後。
そこから十三日、十八日後には結果が出てしまう。

それだけあればミサがLを殺すのに充分かも知れないが、名前を覚えていない可能性も充分にあるし、まだ会って話も出来ていない現在の状況では心許ない。

何より、Lを殺してしまっては性別を戻す手段が……。


「ま、待ってくれ!」

「何故ですか?あなたはキラではないんですよね?
 それならば出来るだけ早くそれを確実に証明したいでしょう」

「そうなんだが、死神が……」


そう。現在レムは、捜査員が常に監視を続けていて僕に会いに来る事が出来ない。
二人で話せれば、この、身体の変化について何か知らないか質問する事も出来るのだが。


「死神が?」


せめてリュークと話したい。
性別の変化について何も言っていなかった所を見ると、デスノートと無関係である可能性も低くないが。


「まず、僕に死神の尋問をさせてくれないか?」

「構いませんが、人前に姿を現して良いんですか?」

「……」


良くはないが……。
まずは、何とかして13日のルールの嘘が竜崎に暴かれる事を防がなくては。





僕は、厚着をして二日ぶりにメインルームに行った。
皆、僕を見て驚いた顔をしていたので血の気が引く。


「月くん!もう大丈夫なのかい?」


松田が、肩を抱かんばかりに近付いて来た。
気付かれてはいない……か。


「少し、痩せたか?」

「そうですね。全体に線が細くなりましたね、月くん」

「首が細くなったね。顔色は悪くないみたいだけど」


父をはじめ、捜査員達に口々に心配されて、漸く胸を撫で下ろす。
手で彼等を制し、ソファに腰を下ろした。


「ご心配をおかけしています。
 体調は万全とは言えませんが、今日はどうしても僕自身で死神に質問したくて」

「声も擦れてるね、風邪かな?」

「さあ。そうだ、そんな事より死神レム、少しいいですか?」

『構わないが……おまえの身体、』

「何とか大丈夫だよ」

『死神には繁殖能力はないが、オスメスの区別があるのは、』



しまった、死神には透視能力でもあるのか?


「いや!死神の生態については、後で聞かせてくれ」

『……おまえは、大丈夫なのか?』

「問題ないと言っているだろう」

『あまり気にした事はなかったが、人間にはよくある事なのか?』

「ああ。人間は弱いからね、偶に病気になるんだ」

『病気……』


レムがじっと僕を凝視する。
だが僕がそこには触れないでくれと念じているのが分かったのか、すぐに目を逸らした。

しかしこうなると、性別が変わったのは死神やデスノートとは無関係である可能性が高くなってきたな……。


「僕が聞きたいのは、デスノートの『十三日のルール』だ」

『……』

「僕が監禁された直後から二週間の話だが」

『……』

「その間、デスノートによる死者は発見されていないんだ。
 その時も火口がデスノートを持っていたのか?」

『……ああ。何故だ』

「二週間と言えば十四日だ。
 十三日が過ぎているのに何故、火口は死ななかった?」

「ラ、ライトくん……!何を、」


空気が凍る。
それはそうだ。
自分でも、何を言っているのかと思う。

だが、これしか考えつかなかった。
Lがデスノートを試し、十三日のルールが嘘だと証明されれば、それは即僕の逮捕に繋がる。

しかしそれより先に、僕自身がそれを証明すればどうだ?
僕は完全に無罪ではなくなるが、一応グレーゾーンに留まることが出来るだろう。
捜査本部の心情的には、ほぼ白になる筈だ。


「ライト!それでは、おまえも、」

「ああ。折角監禁のお陰で無罪が証明されたと思ったけれど。
 気がついた以上黙っている訳には行かない。
 あのノートに書かれたルールは、全部嘘、とまでは言わないが、絶対ではないのも確かだ」


Lを見ると、いつも通りの無表情で親指の爪を噛んでいた。


「竜崎……」

「なるほど。さすが月くんですね。私も気付きませんでした」

「ああ。だから、もう一度僕を監視していいよ」

「はい。そうさせて貰います」


父が、ガタッ、と椅子を鳴らして立ち上がる。


「竜崎!しかし息子は、自分でそれを証明したんだ。
 せめて手錠は……」

「分かりました。まあ今は病気でもありますし、手錠は取り敢えずしません。
 監視カメラも不要です。
 でも、私自身が24時間監視はします」

「ああ……」


それから僕は咳き込んだ振りをして寝室に下がり、竜崎が付き従うように着いて来た。






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