魂は千里を走る 2
魂は千里を走る 2








『どこまで逃げるつもりですか?』

「逃げる、つもりなんか」

『今の私は幽霊ですから、するとしたら寝ている間に犯すくらいの事しか
 出来ませんが』

「……!」

『そうやって逃げ続けるのなら、私は“N”の元に行きますよ?』

「……」


“N”に、夜神は少なからず脅威を感じている。
……楽しんでいる。
私の死後、唐突にぬるくなった世界に現れた、新たなライバルの存在を。


『私が“N”に情報を与えれば、キラの支配はすぐに終わります。
 死んでしまえばその辺りはどうでも良いんですが、
 まあ、あなたへの腹いせにはなりますよね』

「……」


その“N”に、「幽霊」という反則的な存在によって敗北する事に、
彼は耐えられない。

自分は「死神」という反則技で私を葬っておいてと思うが。
夜神の中では「正義=自分」はどんな手段を使っても良くて、「悪=探偵」は
徒手空拳で自らの前にひれ伏さなければならない事になっているのだろう。


『どうします?』


尋ねると、夜神は私をじっと睨んだ。

今、彼の頭の中では色々なシミュレーションが行われている筈だ。
だが、生者が死者を支配出来る事よりも、私が“N”にコンタクト出来る可能性の方が
遙かに高い、という事は考えるまでもないだろう。

夜神は遂に目を伏せ、じわじわと動いてベッドの上に横たわる。
私は、勝利に歓喜した。


『服は脱がなくても出来ますが、濡れて困るなら脱いだ方が』

「!」


また無言で、横たわったまま私に回し蹴りをくれる。
勿論当たらないが。

それから、躊躇いながらゆっくりと服と下着を取った。




垂れた夜神の性器を、人差し指と親指で刺激したが


「冷たい!」


そう言って膝を曲げた。


『我慢して下さい』


閉じた膝の中に入り、(私の首辺りを夜神の足が貫いている状態だ)
陰茎を口に含んでみる。
またびくっ、と震え、身体が硬くなる。
不随意に震えているのは、恐怖か……それとも冷気にか。


だが、冷たさ以外にも感じる所はあるらしく、長い間舐めていると
だんだんと硬く勃ち上がって来た。


「嘘……だろ……」

『まあ、若いですから。こういう事もあるでしょうね』


実体のない身体、というのは便利な物だ。
足を開かせたり、腰を持ち上げさせたりする手間が省ける。

ベッドの中に潜り(キルトとマットレスの間ではなく、文字通りマットレスの中に)
閉じたままの夜神の尻に陰茎を突き立てると、潤滑油がなくとも
ぬるりと入り込んで行った。


「つめ、たい……」


また繰り返して、夜神は身悶えるが逃げはしない。
驚くべき自制心、と言ってやっても良いだろう。

それでも。


「やめっ……」


私が動き始めると、夜神は腰を浮かせて逃げた。
思わず頬が緩んでしまう。
手錠で繋がれて生活していた期間に身体が覚えた、か。

だがいくら逃げても、物理法則の通用しない私には関係ない。
夜神の頭がベッドヘッドに当たって止まった所で、奥の奥まで入れてやった。

傍から見れば、腰を浮かして勃起しきった性器を突き出し、
その先から滴を垂らしながら、ベッドヘッドに頭を擦りつけている夜神、という
卑猥で不条理な光景だろう。


「竜、崎……もう、許してくれ……」

『冷たい方が感じるんですか?変態くさいですね』


指で直接前立腺を刺激しながら(我ながら反則だ)腰をグラインドさせていると、
夜神は震え始め、やがて勢いよく射精した。

精液と一緒に涙を零し、荒い息を吐く。
眉を寄せ、ぎゅっと閉じた瞼を開く事が出来ないでいる。

その、敗北感にまみれた顔は、十分に私を満足させるものだった。





「……これで、Nの事を教えてくれるんだな?」

『まさか。それではアンフェアプレイというものですよ』

「約束しただろう!」


夜神は強く閉じていた目を、今度は見開いて私を睨んだ。


『してません。約束したのは、“N”の元に行かない、という事だけです』

「おい!」

『今後も偶には相手をして下さい。
 その身体を駆使して、私をつなぎ止めて下さい』

「……」

『それが出来なければ、困るのはあなたですよ?』

「……」


息を詰めて私を睨んだまま手を強く握って拳を作っていたが、
やがて唐突に溜め息を吐いて目を逸らし、天井を見つめた。
腹に散ったままだった精液が、脇に流れていく。


「僕は、負けない」

『そうですか』


ふわりと浮かんで夜神の対面に行くと、涙をたたえたまま
ニヤリと不敵に笑って見せた。


「憎い、“兄上”だ」

『兄弟とはそんなものですよ』

「僕に会うために、黄泉の国から千里を越えて帰ってきたくせに」

『……』


……まあ、それはそうだ。


高度を下げて、夜神の唇に自らの唇を押しつける。
彼が冷たいと感じているのかどうか、私には分からなかった。





--了--





2012「あめこんこん」に寄稿させていただいた「Raindrops and the moon」の続き。
 絵茶で頂いた宿題「どぴゅっ」でした。実事は自宅で。
 目黒さんと以前ネタ提供下さったクロさんに感謝!






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