神話 16 その翌日、偽キラのビデオテープがさくらTVで放映された。 勿論、偽物だと分かっているのは本物のキラである僕だけだが。 こんな時に……全く、毎日望まないイベント続きだ。 偽キラは他局のアナウンサーやコメンテーターを殺した後、キラの理念について語り始めた。 大筋で間違ってはいない。 他局のカメラに、放映を止めに行ったのであろう男性がさくらTV本社前で倒れている所が映る。 間違いない、もう一冊のデスノートを持っている人間がいるんだ。 恐らく顔だけで殺せる……僕より殺傷力では遙かに優れたキラ。 そしてそいつが、キラとかなり似た思想を持っている事は間違いない。 問題は、キラと協力しようとしているのか、それとも排除して成り代わろうとしているのか、だが……。 今、Lや警察は何とか放映を中止して偽キラの送って来たデータを回収しようと必死だろう。 だが、誰もうかつにさくらTVに近づけない状況だ。 僕としては、今は高みの見物と行くしかない。 と、思っていた時。 TV画面の中で、護送車が正面玄関に突っ込む。 「なっ……」 警察官だろうが……無茶な事をする奴もいたものだ。 その時、携帯が鳴る。 『月?!』 「ああ、どうしたの母さん。今TVで、」 『そんな事より!お父さん家に帰ってない?!』 「え?……いや……」 嫌な予感に、画面に目をこらす。 突っ込んだ車両の運転席から出て来た人物の後ろ姿がちらりとだけ映ったが、そのツイード生地に見覚えがあるような気がした。 「父さん……?」 『月?月、一体、』 「よく聞いてくれ、母さん。父さんは多分無事だ。 僕も心辺りを探すから、母さんは慌てず病院で待機していて欲しい」 あれが父だとするなら、テープを取りに行ったのだろう。 そしてそれを見つけたらまずLに連絡する筈だ。 十分間ほど母に状況と自分の推測を説明し、通話を着る。 通じないかも知れないが、流河に電話してみよう。 と思った途端、知らない番号から着信が入った。 切ってしまおうかと思ったが、何か予感めいたものに導かれて通話ボタンを押す。 「……はい」 『夜神。TVを見ていたか』 ……神門。 「見ていた。その件で少し忙しいんだ」 『おまえはキラ事件にとても興味を持っていたからな。 キラじゃないかと疑われてもいたし』 「悪い。切るよ」 『待て。実は、さくらTVからあのテープを貰って来たんだ』 「……え?」 どうやって? 父が取りに行ったのに? 「どういう伝手が、」 『貰ったというよりは突撃して奪った、と言った方が正確だが』 神門は珍しく高揚しているのか、含み笑い混じりに少し早口に喋る。 「今?」 『ああ、さっき』 「危ないじゃないか。うかつにさくらTVに近付くとキラに殺されるのに」 『フルフェイスのヘルメットをかぶって裏口から入った』 「さっき警察車両が突入したけど」 『それは知らないが、一足遅かったな』 「神門」 僕は、携帯を反対の耳に当て直して声を顰めた。 「よく聞け。それは犯罪だ。 今すぐ、警察に行ってそのテープを提出するんだ」 『それでは意味が無い。俺は、おまえに渡したいんだ』 「……」 僕を呼び出す為だけに、こんな事をしたのか? こいつも限度のない.……。 「分かった。すぐに行くから、落ち着け」 『俺は落ち着いてるよ。常に』 その通り、神門の声は憎らしい程に落ち着き払っていた。 通話を切って、流河に電話しようとアドレス帳を表示すると、その流河から着信があった。 ワンコールで出る。 『状況は把握していますか?』 「勿論」 昨日の今日だが、その事には全く触れない。 それどころか、夜神くん、と相手を確認する程度の余裕も無いのか。 まあそうだろうな。 僕も余分な事は一切話さず、簡潔に喋る。 「どうなっている?さくらTVに突入したのは父なのか?」 『その通りです。今、連絡がつきました』 「テープは?回収出来たのか?」 『その件で連絡しました。 結論から言うとテープはありません』 「……」 『TV局の人間が言うには、局長が突入する直前にフルフェイスのヘルメットをかぶった人物が襲来して、マスターテープもコピーテープも奪っていったそうです。 局長はテープが入っていた封筒や手紙しか回収出来ませんでした』 フルフェイスのヘルメット……。 神門がすぐにバレるような下らない嘘を吐くとは思わなかったが、やはり本当だったのか。 『その人物は長身の男性で……和弓を構えていたそうです』 「!」 『それで誰も逆らえなかったそうなんですが、夜神くんは思い当たる人物は居ませんか?』 そんな事……聞かなくても分かるだろうに。 嫌な奴だ。 「神門の事を言っているのか?あいつにそんな事をする動機はないだろう」 『どうでしょう。あなたがキラ事件に興味を持っている事を知っていたのなら』 「馬鹿らしい。切るぞ。父に、出来るだけ早く病院に連絡するよう伝えてくれ」
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