神話 15 「……中出ししないって言ったじゃないか」 「あなたのせいでしょう」 「抜けよ」 流河はセックスの後とはとても思えない平静な顔で、ずるりと抜いた。 流河の先と僕との間で、粘った糸が伸びて切れる。 太股に、細く冷たい刺激が走った。 「良い物でしょう?」 「……何が」 「男同士のセックス」 あんな射精をした以上、NOとは言いづらい。 が、ならば口で射精させた神門とどう違うのかと言えば微妙だ。 無理矢理射精させられたと考えれば、レイプと言っても良いのではないか。 「あなたを感じさせている時、私も感じていたという事が重要です」 「……」 「神門くんが口が性感帯だというのなら分かりませんが、少なくとも私は乱暴な事はしていません」 「……でも」 「私、優しかったでしょう?」 「……そんな事、ない。最後は、酷かった」 「でもお陰で凄く良かったですよ。あなたもそうでしょう?」 ……それも。否定出来ない。 確かに僕は快楽に溺れた。 我ながらみっともない程に震えて懇願していたのを無視して行為を始めた時は鬼畜だと思ったけれど。 流河は裸のまま、脱力した僕に肘枕をして寄り添っている。 気付けば、もう男の裸が怖くない。 今なら、神門とも平常心で向き合える気がした。 「……どうして、こんな事をした?」 「言ったでしょう。あなたを神門くんから守る為です」 「だから、何故僕を神門から守ろうと?」 「あなたに惚れたとでも言って欲しいんですか?」 にべもなく言って流河は僕から離れ、シーツで自分の物を拭った。 「ああ……、元々ゲイなんだ?」 「それもNOですね」 「随分経験豊富だったようだけど」 「いえ。あなたと神門くんの事を知ってから、新宿へ行って短期修行をしてきました」 「……マジ?」 「マジです」 「信じられないけど……尚更、何故そこまでしたのか気になるな」 流河は意地の悪い笑みを浮かべて、Tシャツを身に着けた。 「やはり……あなたがキラだと思っているからですね」 「……」 「最中、あのキラを好きにしていると、感じさせていると、妄想して興奮していました」 「……結構最悪なんだな、おまえ」 「後、キラであるあなたを他の人間に取られたくないというのもありますし」 思わず息を呑んだが、流河は平然としている。 「……でも。恋人でもなし、他の人間と付き合いたかったら付き合うよ、僕は」 「私の物にはならないと?」 「当たり前だ」 流河は指を咥え、何故か嬉しそうにニヤリと笑った。 「そうですね。トラウマがなくなったあなたは、神門くんとも寝るかも知れませんね」 「何だよ」 「あなたは今日感じる事を覚えた。セックスを楽しめるようになった。 歯止めを失い、沢山の男性と、女性と、手当たり次第に寝るようになる」 「……何の話だ?」 「セックスが無ければ生きて行けなくなる。 けれど、結局誰と寝ても満たされなくなる。何故か分かります?」 また、手が震えそうになる。 こめかみに汗が滲む。 「……僕は、セックス依存症になったりはしない」 「よく分かっているじゃないですか。 でも、性的な部分に関しては精神が脆い事は認めますよね?」 「……」 「そういう人の初体験がレイプだった場合辿る運命は殆ど二択です。 二度目が中々出来ずに一生性体験なしに終わるか、逆に愛のないセックスを繰り返して初体験の辛さを薄めようとするか。 だから私には、あなたの未来が見えるんです」 「おまえ、」 まさか……その為に、僕を抱いたのか? 「良いですね、その怒りに燃える目。 その通りです。あなたをセックス依存まっしぐらの軌道に乗せてみました」 「……!」 本当だろうか。 だが、そんな話を聞いた事がある気もする。 「あなたは警察官僚志望でしたよね? 理性的な人ですし、セックスをせずに一生渇いたまま生きていく事も可能かも知れません」 「……」 「でもそれはかなり辛いと思いますよ。 逆に箍を外してセックスにいそしめば、いつかは必ずトラブルに巻き込まれます。 まあその時命があれば、官僚を捨てて社会の裏街道を生きていくのも一つですね」 身体の奥が、疼く。 今は射精したばかりで満たされているが、きっと僕は……。 他人の肌を求めてしまうだろう。 手が、震える。 また顔から血の気が引く。 流河はそんな僕を見て、酷く優しく微笑んだ。 僕を犯す直前の神門を思い出す。 「……でも私なら、どちらも回避できます。 あなたの過去も現在も、感じる所も全て知っています。 色んな人とセックスしなくても、私なら絶対あなたを飽きさせません」 「……」 馬鹿馬鹿しい。 学習してるんだよ、僕は。 そんな笑顔の裏には、必ず陥穽が隠れている。 「勿論セックスしまくって全てを失ってから私の元に来ても良いですが。 それよりは今、私の物になってしまう方が利口だと思いませんか?」 ……。 腹の上の精液が、渇いてぱりぱりと引き攣る。 中では流河の精液が、どろどろと渦巻いている。 「ねえ?夜神くん」 流河が再び覆い被さって来た。 僕は目を閉じてその口づけを受け入れ、自ら舌を絡めた。 「良い子ですね。大切にしますよ……キラ」
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